現在の泌乳牛は遺伝的に改良された影響もあり、分娩後必ずと言っていいほど、牛は体脂肪が動員され痩せてきます。しかしその際蛋白の供給不足等のためか、筋肉等の体蛋白も失われることが知られています。体蛋白が失われるということは、筋肉だけではありません。関節や蹄を構成する蛋白も失なわれていると推測されます。分娩後蹄や関節に障害が多くなる一因はここにあるでしょう。
どんな飼料原料にも油脂は多少なりとも含まれています。牧草にも草種、生育ステージによっては乾物当たり4%以上あるものもあります。私はTMR中の油脂含量の限界は5%台と捉えています。TMRの油脂含量をアップしても、分娩後の一時期には体脂肪の動員は一般に起きています。
油脂や体脂肪は、体内でグリセロールと脂肪酸に分解されます。グリセロールからブドウ糖は生成されますが、脂肪酸からは直接ブドウ糖は生成されません。詳しいメカニズムはここでは述べることはできませんが、体内においてブドウ糖を作るためのエネルギー源にはなっています。牛が分娩すればNEB(マイナスのエネルギーバランス)になります。その際に体蛋白の糖新生を少なくする方策は飼料中のバイパス蛋白の増給とルーメン発酵の促進による菌体蛋白の増加です。
体脂肪からの遊離脂肪酸はグルコースにはなりませんが、もう一つの細胞のエネルギーであるケトン体になっていきます。
ケトン体は動物の空腹時や飢餓時における細胞のエネルギーであり、現在の高泌乳牛のNEBにおける細胞の主要なエネルギーです。
それでは、油脂や体脂肪を使ってケトン体が大量に生産され、血中、尿中の値が異常値を示しても、「ケトーシス」という乳生産を大きく減ずる疾病にしないためにはどのような方策があるのでしょうか?
その方策のヒントは「ケトーシス」の原因をインスリン抵抗性や肝機能の低下(脂肪肝)に結び付けることです。それが酷くなると牛の回復が難しくなる「ケトアシドーシス」という病態になります。ケトン体自体は牛の効率よいエネルギーですが、酸性を示す性質があります。そのため肝臓や腎臓の機能が弱った中でこの酸性が過度になれば「代謝性アシドーシス」という病態を引き起こすのです。ケトン体は肝機能を低下させる毒性物質に分類されるものではないでしょう。
分娩前までの乳牛の管理は一般に紹介されているとおり、BCS、環境を適正にして、良質粗飼料を給与して食い込みを落とさない等、周産期の基本事項があります。しかし、現実には分娩前過肥牛はいます。牛舎環境も暑熱ストレス等の対応は限界があります。その中で実施できることが多いのは、「飼料給与」です。ここでは研究報告や酪農雑誌等に一般的に紹介されていることは割愛し、一般に農家さんが見逃している、分娩前の過肥牛における周産期の飼料給与を次回、紹介したいと思います。