前報において、高泌乳牛ではトウモロコシのような穀類の割合を増し、つまりTMRの澱粉含量を高めエネルギーの不足に対処しなければならない給与メニューではルーメン/大腸アシドーシスのリスクが増加することを示しました。これを防ぐTMR設計の処方箋としては加熱大豆、綿実のような油脂飼料や市販のバイパス油脂の組み込みがあります。しかしこの組み込みも限度があり、TMR中の油脂含量を6%以上にしてもルーメン発酵や採食量への影響からエネルギーアップには繋がらない場合が多いでしょう。
泌乳牛の乾物摂取量に限度がある中、他に手立てはないでしょうか?
私の泌乳牛の飼料設計の中で重要視しているのは高泌乳牛のNEB(エネルギーバランスがマイナス)時のパイパス蛋白のエネルギー利用です。一般に飼料中のバイパス蛋白はトウモロコシからの澱粉に比較し割高です。しかし、本TMRセンターで利用している麦芽糖化粕サイレージやDDGS中のバイパス蛋白は、市販のバイパス蛋白飼料よりはコストパフォーマンスは高いと捉えています。このバイパス蛋白利用は、澱粉/油脂をこれ以上増加することができない、あるいは牛の蹄、肢を含む筋肉等の蛋白組織の動員を少しでも防ぎたいという窮余の策と言えます。この方式ではパイパス蛋白のアミノ酸組成はあまり問題になりません。なぜならば、乳蛋白の原料ではなくエネルギーとして利用するからです。
但し、NEBの場合の給与飼料からのバイパス蛋白の乳蛋白、エネルギー利用のコントロール、あるいは体の筋肉等の蛋白質の乳蛋白、エネルギー利用へのコントロールがどうなっているかは私の中では整理されていません。
ここで述べた「糖新生」とは、脂肪、蛋白、有機酸等は代謝の中でブドウ糖、血糖に変換されることを意味しています。既報でも説明したとおり、摂取した蛋白質の一部は糖やエネルギー変換に利用されているのです。
尚、ルーメン/大腸アシドーシスを防ぐ王道は、やはり牛の潜在的泌乳能力に対してそれに答えられる粗飼料を食い込める腹作り(ルーメン、消化管づくり)であり、さらに繊維の消化性が高く、しかも粗飼料の物理性(粗飼料因子量)が高い、一般の農家さんが求めるいわゆる「良質粗飼料」であることは、今も昔も変わりはありません。
次回はTMR中の油脂の「糖新生」やエネルギー利用について整理したいと思います。