過肥牛の分娩前の飼料給与は?

私が学生時代の四十数年前から今日に至るまで酪農現場を見てきた中で一貫して、過肥牛がそうでない牛より分娩後のトラブルが多いと強く印象付けられています。

人の糖尿病(2型)もカロリー過剰の食生活が続くことが原因の一つであることが知られています。牛は高血糖による動脈硬化や血管疾患はないようですが、カロリー(エネルギー)過剰が続けば、内臓脂肪、異所脂肪(肝臓、膵臓、筋肉等に脂肪が蓄積)が多くなり、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が強くなることは共通しています。

なぜ過肥牛はそうでない牛より分娩後食欲が低下し、脂肪肝、ケトーシス、乳房炎等の代謝、免疫が関与する疾患が多くなるのでしょうか?

一方、一見太っていても分娩後食欲低下も少なく、自然に皮下脂肪が落ち、高泌乳を維持する牛も散見します。どうして同じように太っていても違いが出てくるのでしょうか?

ここからは、私の推論の域を脱しえませんが、これらの牛は過肥でもインスリン抵抗性が高くないのではと判断しています。

もともとこのような牛はインスリン抵抗性が遺伝的に低い可能性もありますが、泌乳後半太っていても、その後の乾乳期はエネルギー過剰にならず、血糖値も基準値を示す。あるいは乾乳パドックで飼養され運動もし、牛舎環境のストレスも少ない状況があった可能性があります。

インスリン抵抗性は「酸化ストレス」が加わると高まることが知られています。そのため泌乳後期太っていても、前述のように酸化ストレスを少なくする飼養管理をすれば、インスリン抵抗性は分娩前過肥でない牛と同様となり、むしろ体脂肪の蓄積分、泌乳量が高まる可能性もあります。

ここまでの説明で分娩前の過肥牛の栄養管理を理解いただけたでしょうか?

大事な点は泌乳後期、過肥に陥った牛はそれ以降の飼養として、インスリンを分泌する膵臓や代謝の中心である肝臓に負担をかけないということが栄養管理の中心になります。

それでは、具体的にどうような飼料給与をすればいいのでしょうか?

一例として上げれば、

  1. エネルギー過剰や不足にしないため、乾乳前期は基本的には良質の乾草のみを飽食させる。
  2. 乾乳後期(クロース期)は濃厚飼料(配合飼料)を1~2㎏程度、良質乾草を飽食させる。
  3. 「ウルソ」、「シリマリン」(マリアアザミの抽出物)等の「インスリン抵抗性」を緩和する商材を乾乳期から給与する。

尚、上記はあくまで一例であり、農家さんの飼料給与や環境の違い等の事情により、一律な飼料や給与量を示すことは現実的ではありません。飽くまで、乾乳時に必要なミネラル、ビタミンを給与し、そして蛋白やエネルギーを過不足をなくして、牛を高血糖にしない、体脂肪の動員をさせないことを飼料給与の基本にしていきます。

次回は農家さん自身でもできる、乾乳期のエネルギー充足を知る簡易な検査について説明します。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。