同一牛群、同一飼料メニューの各泌乳牛の血中βカロテン値は、血中コレステロール値と相関関係が高いのが一般的です。
成牛の分娩前後においては、血中総コレステロール値はそれ以外のステージに比較し低くなります。血中βカロテンも同様な傾向になります。
この理由を推測すると、脂溶性成分であるβカロテンは、小腸上皮細胞で吸収される際は、その輸送体であるリポ蛋白質に取り込まれ、血液に移行されます。
リポ蛋白質の構成成分であるコレステロールが少なくなれば、その輸送体であるリポ蛋白質は少なくなる傾向にあり、βカロテンの摂取量が同じでも、血中レベルでは低くなります。
この輸送体蛋白については、過去のブログでも取り上げているため参照ください。
一般に分娩後の授精時期に血中総コレステロール値が低値あるいはビタミンA、Eが欠乏症レベルになれば、確実に受胎は困難になります。
しかし、冒頭の繁殖和牛農家さんの血液検査の結果(参考文献1)、農場数44軒、採血頭数625頭)をみると、血中βカロテン値がゼロに近い牛が多数いることが確認できます。それでは、このゼロに近い値を取った繁殖牛と血中βカロテン値の基準値(200ug/dl?)以上になった繁殖牛とでは、受胎率にどれだけ差があったが気になります。
牛の栄養代謝におけるβカロテンは、ビタミンAの前駆物質(プロビタミンA)です。当然、添加剤としてビタミンAを供給しない状況で、飼料中のカロテンが不足すれば、確実にビタミンA欠乏に至り、受胎困難になります。また、分娩後低エネルギー状態が続けば、低コレステロール血症になり、受胎はむずかしくなります。
このような受胎に直接影響する血液成分と相関関係にあるβカロテンの受胎に影響する寄与率を正しく判断できる国内での研究を小生の中では確認できていません。
受胎に好影響を与えるとされている商材として、抗酸化作用あるビタミンEを筆頭に、βカロテン、アスタキサンチン、ステビア抽出液等多くのものが市販されています。
尚、私の中では、受胎に問題ある牛群において、牛群の栄養状態を診断した中で、これらの抗酸化物質となる商材を解決策として使う優先順位は低いものになっています。
参考文献)
1)「黒毛和種繁殖農場を対象とした代謝プロファイルテストの取組」(令和3年度大分県家畜衛生研究所業績発表回)
2)「血中β-カロチン及びビタミンA等が 採卵成績に及ぼす影響」(新潟畜試研究報告第10号(1994)