牛の栄養代謝の素朴な疑問(15)「乳蛋白、血中アルブミンが低い場合、飼料中の蛋白質不足が原因?」

乳検を実施している牛群を長年見てきましたが、その中では泌乳牛の飼料メニューの粗蛋白質レベルが14%以下はほとんどありませんでした。

しかし、泌乳前半の牛において、乳蛋白が平均3%以下、MPT(代謝プロファイルテスト)におけるアルブミンが低い(基準値以下)牛群は多かったという印象を持っています。

過去のブログでも泌乳前期などエネルギーが充足しない場合、粗蛋白質が1~2%のレベルの違いでは乳生産に差はでにくく、また1~2%の高い蛋白分が「糖新生」によりエネルギーになったとしてもエネルギー効率は澱粉・糖より悪くなります(「尿素コスト」)。

実際、泌乳前期のエネルギー収支がマイナス時に乳蛋白や血中アルブミンが低い場合、飼料中の蛋白レベルを上げるか、あるいはエネルギーレベルを上げるかと問われた時の回答はどう対応したらいいでしょう。

私の中では、少なくとも適正な飼料設計の範疇であれば、蛋白を上げるという選択はまずありません。
何とか飼料給与の工夫で乾物摂取量を上げる、あるいは飼料メニューの繊維の消化率をアップしエネルギー充足率を上げるという方策をとります。

しかし、泌乳後半エネルギーが充足した時にそれでも乳蛋白、アルブミンが低い場合は蛋白摂取量を上げることで効果が出る可能性はあります。ただ、このような牛群はそんなに多くはありませんでした。
泌乳後半エネルギーが充足した時にエネルギーのレベルが同じ飼料メニューの場合、蛋白のレベルの違いでエネルギーの分配が産乳にいくか、体蓄積(主に脂肪)にいくかの量的な把握は私にはできていませんが、過去のブログで示したとおり、飼料メニューにおいてバイパス蛋白や消化性の高い繊維の比率を高める飼料設計を薦めることになります。

この理由は、医学分野等の知見である栄養素である澱粉、糖は蛋白や有機酸に比較しインスリン分泌を高める、エネルギーの体蓄積を強めるということからです。
高泌乳をめざす遺伝的改良は、成長ホルモンの分泌とインスリン抵抗性を高め、エネルギー分配を体蓄積ではなく、泌乳への分配を高めているのではと考えます。
その影響により体蓄積のエネルギーが十分でなく、免疫、受精に影響が出ていると私の中では捉えています。
この産乳と受胎が折り合える飼料給与、飼料メニューを今も模索中です。

冒頭の図はニュートリー(株)のHP https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch2-3/から引用させてもらいました。

尚、この3月を持って佐久穂町の「地域おこし協力隊」の活動を終了し、このブログも一区切りします。
4月からはこのホームページを借りて一酪農コンサルタントとして、推測の域を出ないとみなされる内容が多くなるかもしれませんが、チャレンジしてほしい酪農技術や皆さんに考えてほしい内容等を毎月1回程紹介して、皆さんの意見をお聞きしたいと思っています。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。