代用乳、人工乳について、その研究開発に携わった経験をもとにお話ししてきましたが、次に育成飼料について触れていきたいと思います。
さとうきびから液汁(砂糖の原料)を搾った残さ物(バガス)を糖蜜等を加え発酵させたものを「発酵バガス」と称して牛用にいくつか普及している飼料商材があります。
一般にバカスはさとうきびの繊維の特性から繊維の消化性は稲ワラより低く、また発酵によりバカスの繊維の消化率が上がったという学術的な報告も見当たりません。
一般に飼料用に繊維を分解する酵素は普及していますが、その作用はほとんど消化しやすいヘミセルロースの分解であり、微生物資材等を使う場合でもセルロースやリグニンなど難分解性の繊維が多いバガスの消化性を上げるには粉砕等の処理が不可欠です。しかしこれらの商材は一般には粉砕されておらず、易消化性繊維分画値を開示しているメーカーも見当たりません。 しかも、育成牛というルーメンが発達途上の繊維の消化が十分でない牛に本飼料を給与する効果はあるのか、素朴な疑問が沸いてきます。
本商材には粉砕状のものも含有しており、飼料としてのルーメンへの物理性は私が携わった給与試験や他の研究報告等から判断して、稲ワラ以上の物理性があるとは考えにくいところがあります。 ただ、ルーメンへの効果とは別に既報で触れてきた腸内発酵への影響があるかもしれません。
腸内発酵であれば、本品が粉状であっても、腸内での飼料の滞留時間を伸ばしたり、水分の吸収が高まることは十分にあります。 実際、いくつかの研究報告でも本品給与による糞の水分含量が低下する報告が見られています。また腸内での難消化繊維の機能としてアンモニア等の有害物質の吸着も知られています。
あるいは想像の域を脱しえませんが、サトウキビに含有する機能性成分や発酵による新たな繊維以外の機能性成分が産出され、それがルーメンや腸内微生物の増殖に寄与している可能性があります。
私が知るこれまでの牛の栄養学では知りえないものがあるのかもしれません。 「発酵バガス」に関してもより学術的な研究が進むことを願う次第です。