代用乳、配合飼料等の飼料価格の高騰が続く中、肉用牛の素牛については過去のブログでも紹介したエピジェネテックス(DNAの塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御する仕組み)や高蛋白の代用乳を多給する「強化哺乳」により、牛の潜在的(遺伝的)発育能力を最大限に引き出し、生後できるだけ早く大型の素牛を作る方式は、飼料費が高騰してもそのメリットはあるでしょう。
ただ、乳用育成牛についてはそのような離乳時期に最大限の発育をねらう方式より、寒冷時や暑熱時等のストレスが強くかかる時期は除いて、従来の早期離乳哺育方式(生後35日~42日齢)で実施し、離乳後から生後12ヶ月齢までの成長期に広義の「代償性発育」を期待して、「強化哺乳」方式より飼料費をかけずに同様な初妊牛ができるのではと判断しています。
これを意識したのは、私がフォローしている牛群5軒において3年間ホル育成牛の体格測定した結果からです。
この5牛群の哺乳量や哺育期間等の育成方式は一律ではなく、牛群によっては、生後10ヶ月齢までの各牛群の平均の体高値は標準の上限から下限程度と大きな差がありました。
しかし、生後20ヶ月齢前後では、各牛群の平均の体高値は何れも標準発育の上限あるいはそれ以上になり各牛群の差はほとんどなくなっていたのです。
ただし、育成前期に発育が高い牛群が前述の最大発育を狙った哺育方式を実施していたわけではなく、また強化哺乳などの牛の最大限の発育をねらった哺乳・育成方式に比較し、今回紹介した事例が同じような最大の発育を示したと言っているのではありません。
これまで子牛の時に下痢や肺炎等の疾病が少なく、また22ヶ月齢前後の早期分娩が実現できような牛群において、この飼料高騰時期にさらに飼料費をアップする哺育方式を採用するメリットがあるかを酪農家さんが検討する際の参考事例になればと思って次第です。
尚、ここで意味する「代償性発育」とは、哺育時に最大限の発育を狙うのではく、哺育期はこれまでの標準的発育として、離乳までにできるだけスターター等の固形飼料の摂取量を多くして、骨格の成長率が大きい3ヶ月齢ないし6ヶ月齢の間で高い成長を狙う方式です。そのためのポイントは哺乳中から3ヶ月齢まではそれに必要なバイパス蛋白を積極的に摂取させることにあります。
冒頭の図は乳用育成牛の発育曲線を示しています。体高(骨格)の発育率は6ヶ月齢までが高く、離乳以降この期間で高い発育を実現できれば、その後標準的な発育でも22ヶ月齢以前の早期分娩は十分可能です。
(参考文献)
1)「子牛の代償性成長に関する研究」(北海道農業試験場報告(1980年))
2)「哺育子牛の栄養と飼養管理の変遷」(家畜感染症学会誌1巻2号、2012年)