ルーメンは嫌気的であり、そのルーメン微生物の活動の結果、主に種々の低級脂肪酸やアンモニア、メタン、炭酸ガス、水素の他、有害な一酸化炭素、硫化水素等も発生します。
しかし、異常発酵を起こさない限り血中への移行は少なく、牛の健康は保たれます。主にメタンや炭酸ガスは曖気(ゲップ)としてルーメンより放出され、水素はルーメン中の不飽和脂肪酸の飽和化に寄与しています。
ルーメンに飼料由来の硝酸イオンが入ると還元され、亜硝酸イオンになり、さらに還元が進むとアンモニアガスないしアンモニウムイオンになります。
しかしルーメンに大量に硝酸イオンが入ると亜硝酸イオンがオバーフローして血中に入り、赤血球のヘモグロビンと結合するなど牛の代謝に影響を与え、健康を害することになります。
過去の研究報告を見ると、ルーメンpHが酸性化するとルーメン中の硝酸還元酵素の活性が弱まり、亜硝酸イオンの発生速度が低下するようです。育成牛、乾乳牛等において空腹時のルーメンpHが7.0前後になった時、硝酸態窒素の高い粗飼料を最初に給与することは避けるべきです。
牛における硝酸態窒素の危険域は給与飼料中乾物当たり0.2%(泌乳牛)ないし0.1%(乾乳牛)として知られています。
この濃度はあくまで一日の牛が摂取する乾物量の0.2%ないし0.1%です。実摂取量で言えば、一日の硝酸態窒素摂取量として40gないし20g以下にすべきとなります。
乾乳牛や育成牛の飼料は粗飼料主体であり、前述のような硝酸態窒素が高い飼料の給与は十分注意すべきです。しかし、泌乳牛の場合、多くは乾草やサイレージの割合は乾物当たり5割以下です。さらにTMRにして給与すればルーメンpHは酸性域に入ります。
このことから泌乳牛では0.2%(2,000ppm)以下の粗飼料であれば、乾物5~6㎏程度は与えても牛への障害は考えにくいのです。
私が懸念するのは寧ろ、ルーメンにおいて亜硝酸からアンモニアになった時のアンモニアのオーバーフローです。乾物摂取量中の窒素0.1%は蛋白換算約0.6%になります。
アンモニア態窒素として0.1%以上血中に入れば、牛への肝臓等の負担は少ないものではありません。
粗飼料の硝酸イオンは、ルーメンにおいてアンモニアになるという前提で飼料設計する必要があります。
硝酸態窒素の高い粗飼料は糞尿堆肥の大量投入栽培に起因する場合が多く、既報で触れたように糖含量が低く、ルーメン微生物に必要な糖が不足してくる可能性があります。試験的に糖蜜等を給与して、乾物摂取量なり、乳量がアップすれば、その可能性は十分あります。
硝酸態窒素の高い粗飼料を給与して急にバルク乳のMUN(乳中尿素態窒素)が増加すれば、それはその硝酸塩はルーメンでアンモニアになっているのでしょう。
尚、サイレージ等の硝酸態窒素は簡易なコンパクトメータで測定でき、農家さんにおいても給与前に調べることができものです。