牛の栄養代謝の素朴な疑問(10) 「牛の黄体細胞は何色?」

前報において、水牛の血液にはほとんどβカロテンは移行しないことをお話ししました。
今回は牛のβカロテンの摂取量と黄体細胞の色調について、学生時代、食肉センターにおいて牛の卵巣を採取させてもらい、その黄体細胞のβカロテン含量を調べたことを思い出して整理したいと思います。

先ず、牛の黄体の色調は黄体の退行期(性周期の終わり)ではない機能性黄体の時期では、黄色というより赤味(橙色)が強いことが記憶に残っています。実際、研究機関等から公表されている黄体の写真からもその記憶は間違っていないようです。

それでは、なぜ「黄体」と言っているのでしょうか。
医学では「黄体細胞」のことを「ルテイン細胞」ともいいます。ルテインとはキサントフィルの一種です。カロチノイド系の色素は、大きくキサントフィルとカロテンに分けられます。
人やネズミでは、カロテンよりキサントフィル系の色素が血中に移行しやすいために黄体細胞にはルテインが大量に蓄積し、カロテンはわずかです。そのため、カロテンよりはキサントフィルの周波数の色調に影響を受け、黄体の一般的な色調は、見た目では黄色味が強くなると判断しています。

牛において抗酸化作用が強く暑熱ストレスに効果があると言われているアスタキサンチンもキサントフィル系の色素であり、血中への移行はわずかです。そのため、その効果はルーメンを介した間接作用であると考えてしまいます。

牛の機能性黄体は、血中に移行しやすいβカロテンの波長を反映して、通常の飼料では、黄色よりは橙色が強いものになっているのです。。
牛の黄体細胞の色調は、血中βカロテンに大きく影響され、βカロテンをほとんど摂取しない場合は、赤味や黄色味はなくなってきます。羊や水牛の黄体の色調はカロテンの摂取量の如何を問わず、ほとんどカロチノイドの血中はわずかであるため、その色調は出てきません。
なぜ、同じ哺乳動物でもカロチノイドの種類や量の血中移行量が違うのかは、私の知識では整理できませんが、進化の中で選択されてきたと判断してしまいます。ただ、共通しているは、野生の草食動物は他の動物種と異なり、餌からビタミンAを摂取できないため、カロチノイドからビタミンAを合成するのみです。血中レベルのビタミンAがわずかになれば確実に欠乏症を発症することは種を問わず共通しています。

冒頭の写真は牛の黄体期の卵巣です。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。