牛の栄養代謝の素朴な疑問 (1) 「ルーメン微生物はなぜ蛋白質をアンモニアに?」

既報のブログで牛においても血中に移行したアミノ酸、脂肪酸、有機酸等は「糖新生」という代謝により、エネルギー(ATP)に移行することを整理しました。
ルーメンにおいては飼料中の蛋白質はルーメン微生物の酵素によりペプチドやアミノ酸に分解され、一部は菌体に組み込まれ、一部はアミノ基が外れ、エネルギー源として利用され、アミノ基はアンモニアに変化し、そのアンモニアはルーメン細菌等が持つ酵素によりアミノ酸、菌体蛋白に合成されていきます。つまりルーメン内ではアミノ酸の分解と合成が同時に行われている複雑な動的平衡状態にあると言えます。

ルーメンの教科書を見てみると、タンパク質を分解しアミノ酸を体内に取り込み、エネルギー源にしているのは、プロトソアが主要を占めています。プロトゾアは一般にはアンモニアを同化しアミノ酸にする酵素は持ち合わせておらず、それは細菌の役割になります。
冒頭の「ルーメン微生物はなぜ蛋白質をアンモニアに?」の答えとしては、ルーメン微生物におけるエネルギー摂取の寄与率は少ないけれども、誤解を恐れずに言えば、単純にアミノ酸をエネルギー源にするためとするのが考えやすいのです。
これは何もルーメン発酵に限ったことではなく、これまでブログで触れた身近なサイレージ、堆肥、土壌中の微生物の一般的なアミノ酸とアンモニアの代謝と言えます。
私が関わったサイレージ研究では、炭水化物である糖がサイレージ中に十分あれば、乳酸発酵主体になり、蛋白やアミノ酸をエネルギー源にできる嫌気性菌であるクロストリジウム(酪酸菌)は増殖しません。堆肥や土壌では利用できる炭水化物、炭化水素は少なく、クロスリジウム等の細菌がアミノ酸のアミノ基を外して、優先的にエネルギー源にしていると思われます。

私の中では、ルーメン微生物にとってもルーメンは可溶性の炭水化物が少ない状況であり動物と同様、蛋白質やアミノ酸は優先的なエネルギー源になるのではと捉えています。
私の泌乳牛の飼料設計の基本にあるのは、一般に言われるとおり、ルーメン発酵を最大(菌体蛋白量を最大)にする栄養バランスです。私の中では、乳成分中の尿素態窒素(MUN)の高値(10㎎/dl以上)は栄養素のバランスの悪さを懸念します。低値(5㎎/dl以下)でも、高泌乳牛において飼養標準以上の乾物摂取量、乳生産量、飼料効率であれば、その飼料設計が牛の栄養代謝においてアンモニアを発生しない効率的な代謝の結果と判断してしまいます。
今は酪農家さんを始め一般には血液や乳中の尿素態窒素により蛋白質やアミノ酸の代謝を見ていますが、分析技術が進み容易に血中のアンモニア含量が測定できる時代になれば、それに基づく飼料設計が実施され、より牛の健康や効率的な乳生産に貢献するのではと思っています。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。