今回からはこれまで泌乳牛の給与試験や現地試験を実施し、また農家さんの飼料設計を見た中で、NRC飼養標準等の飼料設計モデルには出てこない、見逃されている点について整理していきたいと思います。
第1回目は、泌乳牛の分娩後の乳量と受胎との関係についてです。
過去のブログでも一部取り上げましたが、泌乳牛の給与飼料におけるエネルギーレベル、摂取量を同じくした中で蛋白レベルを変えた場合、分娩後の乳量、泌乳前半の乳量はどうなるでしょうか?
国内の給与試験報告事例(CP14%台とCP16%台の比較、下記参照)では、乳生産量に差は少ないという結果でした。これまでのブログで述べてきたように、分娩後のエネルギーがマイナスの時、過剰の時、蛋白も「糖新生」により、エネルギーになるという代謝から凡そ理解できそうです。
しかし、泌乳牛のエネルギーバランスがプラスに転じてきたような場合、同じエネルギー摂取量でも、バイパス澱粉が高い場合と高蛋白でバイパス蛋白が多い場合では、泌乳や受胎を左右する成長ホルモン、インスリン、IGF-1(インスリン様成長因子)への影響は同じかは、疑問が沸いてきます。
私の中ではやはりコーン圧片のようなバイパス澱粉を多くし、血糖値がそれにより上がれば、インスリンやIGF-1分泌が高まり、受胎にはプラスに働くと捉えてしまいます。それに対してバイパス蛋白が高く、血中アミノ酸が多くなれば成長ホルモン等を刺激し、バイパス澱粉の高い飼料メニューより乳生産への栄養分配は上がる代謝になると捉えてしまいます。このような大きな捉えにより、給与飼料のCPレベルを決める設計をしています。
一般の酪農家さんにおいて、乳生産量と受胎成績を基軸にして平均値で4つに酪農家さんを分類した場合、乳生産が高く、繁殖にも問題ない農家さんと乳生産が低いが繁殖は問題ない農家さんが出てきます。後者に分類される農家さんは私のこれまでの経験の中では少なくありません。
なぜ、繁殖成績が同じような中で乳生産量が違うのでしょうか? その原因の一つとしてエネルギー摂取量や栄養組成に違いがあるからでしょう。成長ホルモンなどの分泌を刺激しなければ、乳生産は高まりません。乳生産の低い農家さんの牛群がそうである一因として遺伝的に成長ホルモンの分泌が低いことがあるでしょう。しかしその影響は少ないとみています。 乳生産の低い農家さんは分娩前後からエネルギー摂取量や蛋白摂取量が低いのです。そのため泌乳を促すホルモン等の分泌も少なく、エネルギー代謝、分配の恒常性が保たれているのです。分娩後のエネルギー摂取量が低いからと言って、直ちに受胎成績に繋がるものではないということです。
私は泌乳前半の牛の乳生産が1日1頭当たり35㎏、40㎏、45㎏のどのレベルになるかは、エネルギー摂取量と栄養組成(特に蛋白レベル)により多くは決まると捉えています。私の中で泌乳前半の乳量と繁殖を両立させるポイントはその牛群のルーメン、消化器官の消化、代謝能力です。牛の消化能力以上の飼料を牛に給与した場合、牛は種々の消化障害、代謝障害が起こるのです。 私の飼料設計では、その牛群に消化不良、代謝不良の兆候が見られた場合、その牛群の消化能力に合う飼料メニュー、設計を提案します。若し変えなければその歪は受胎や健康に影響するからです。私の飼料設計で大事にしていることは、現状の泌乳量から栄養必要量を計算するのではく、その牛群のルーメン、消化器官の消化能力の見極めです。そのため、飼料設計で第一にやることはその牛群はどれだけ乾物摂取量を取れるか、消化、代謝できるかの確認作業となります。
同じ栄養レベルの飼料設計でも、牛の消化能力とその摂取量により、実際の飼料の消化率や牛の代謝的負担は大きく違うのです。これを見極める観察眼が必要です。
牛を遺伝的に泌乳性の高い代謝に改良しても、それに見合う飼料の摂取、消化、代謝能力を持つ牛に育てなければ、高泌乳と受胎は実現できないことが現実なのです。この育成には府県のような自給飼料基盤が少ない農家さんでは経営的に並み大抵ではない苦労になります。
次回は分娩前過肥にならないような太りにくい飼料設計について説明したいと思います。
(参考研究報告)
「乳牛における給与飼料蛋白水準が泌乳に及ぼす影響」(第1~第5報、福井県畜産試験場研究報告)