これまでのブログでも、糞便の性状がルーメン、腸内の消化や発酵状態を知る手がかりになることを述べてきました。
今回はその中で泌乳牛の「糞洗い」(「ダイジェスションアナライザー」やザル等を使用し、糞便を水で洗い、篩に残った不消化の繊維片や穀類の割合等を判断)で析出される、腸粘膜から腸管内に出る粘液である「ムチン」(糖と蛋白が結合した高分子化合物であり、腸粘膜だけでなく、生体内の他の粘膜組織からも析出される物質)について、腸内発酵の専門家ではありませんが、自分なりに整理してみました。
- 医師等が記載する人の便に関する記事をみると、粘性のある便の原因として、便中に脂肪分が多い、あるいは「粘液」(ムチン)が多いためとありました。
- 泌乳牛の「糞洗い」において出てくる所謂、ゼリー状で単体のムチンではなく、篩中に残る粘性の高い固形物を集め、栄養素の分析をしたところ、固形物中の脂肪分は2.2%と低く、泌乳牛の場合の粘性の原因は、脂肪分ではないと判断しました。
- 前述に示した粘性物の肪分以外の栄養素は 繊維(NDF)含量38.4%、粗蛋白含量22.0%、NFC(繊維以外の炭水化物)含量22.5%でした。
- その粘性度合いは牛の個体により違っているため、さらにこの固形物を風乾してみると繊維片が混入していることなどから、腸管から出るムチンと糞便の混合物ではと推定しています。
- 酪農関係の記事を見ると前述の「糞洗い」等でムチンが析出される場合、大腸アシドーシス等の腸内発酵に問題ありとしています。私もそう判断しています。
- 医学関係の腸粘膜上皮から出されるムチンに関する研究報告を参照する限り、牛においても、以下のような面を持っていると判断します。
- ムチンは腸粘膜を守るための生体内の防御物質であり、「糞洗い」において肉眼的に判断できる「粘性物」、「粘液様物」自体に特別の毒性があるわけではありません。ムチンは生理的に出てくるものです。多量に出るということは腸内消化に負担が多いのではと今のところ捉えています。
- 「糞洗い」では正確な糞便中のムチン含量を把握することができません。また牛においては糞便中のムチン含量と大腸アシドーシスの関係を明らかにする研究報告も国内には見当たりません。すでに医学分野では、ムチン含量を測定するキットが出てきており、養牛分野においてもこのムチンに関する研究が進むことを願う次第です。
・冒頭の写真中に見える、黒い固形物は粘性が高く、ムチン含量が高いと判断しました。
(参考記事、文献)
grass_201507_06.pdf (snowseed.co.jp)
糞便ムチン測定キット | 蛍光測定によって糞便中のムチンを定量化 | コスモ・バイオ株式会社 (cosmobio.co.jp)