一般にフリーストール等での泌乳牛一群管理ではその牛群の平均乳量に対応して、「飼養標準」に従い蛋白レベルやエネルギーレベルを決めることが多いと思います。その時の乾物摂取量も同様に「飼養標準」に従って設定することが多くなります。
私の場合、「飼養標準」等の給与モデルの捉え方や飼料設計の基本的手順は以下の通りです。
1)「飼養標準」からその牛群が摂取できると思われる乾物量を算出する。但し、それはあくまで目安であり、実際に給与して、その乾物摂取量を把握する。
2)どのような栄養バランスでエネルギー充足させるかは、酪農家(牛群)の種々の要因(牛舎の環境条件、牛のBCSや健康状態、組み込む飼料原料事情、あるいは農家さんがどれだけの平均乳量を搾りたい等)を重要視しており、実際の平均乳量だけで決まるものになっていない。
3)そのため、一群のTMRの栄養バランスは①アシドーシスになりにくく、低受胎や乳房炎等の疾病リスクを少なくすることを重視する ②アシドーシスのリスクは高いが、高乳量を重視するという、2タイプに大きく分かれる。
(①は②に比較し泌乳前半(分娩後150日)の平均乳量は低くなるが、アシドーシスのリスクは低く、それによる疾病は少なくなる。また泌乳後半の牛のエネルギー過剰も②より少なくなる)
国内では泌乳持続性ある牛の選抜、育種改良、あるいは平準な泌乳曲線となる飼養管理の研究が進められていますが、前者は成長ホルモンの分泌が持続する太りにくい牛の選抜であり、後者はTMRで言えば、インスリンより成長ホルモンが優位になる栄養バランスがポイントなると判断しています。
遺伝的・潜在的泌乳能力が同じでも、TMRの栄養バランスによって、その牛群の泌乳前半の平均乳量は変わります。
実際、TMRのエネルギー量を同じにして粗蛋白を違えた場合、乳量に差が出ることがあります。
フリーストール一群管理でのモデル的な比較としてエネルギー価は同じ乾物当たりTDN75%、乾物摂取量も同じになり、粗蛋白質は14.5%と16.5%と異なる2つのTMRの例を挙げ、整理したいと思います。
実際の給与試験結果でもなく、また他の栄養・飼料成分も示さない中でのモデル的な、誤解を恐れない提示ですが、両TMRとも栄養バランスは適正であるという条件の中ではCP16.5%のTMRの方が泌乳前半の牛の乳量は伸びると捉えています。その理由は泌乳前半牛の血中のアミノ酸量が多くなり、成長ホルモンの分泌量が多くなっているためです。それでは、体脂肪の動員やその持続期間はどうなのかというとやはりCP16.5%の方が増すと判断されます。
問題なのは受胎への影響です。体脂肪の動員やその持続期間が長くなれば、受胎にはマイナス要因になります。
実際には各TMRの平均乾物摂取量や飼料効率が違う場合が多く単純ではないですが、これがTMRの栄養バランスに対する私の基本的捉え方です。
次回は農家さん(牛群)の事情に合わせたTMRの飼料設計について整理していきたいと思います。