牛の飼料、栄養、代謝等でのトピックス(8)「受胎する時の子宮頚管粘液pHは?」

牛の受胎に影響する種々の栄養的、生理的条件の中で、子宮頚菅粘液の性状と受胎との関係を調査した研究報告がいくつかこれまでに出ています。人においても同様に報告されています。

本内容の研究報告は下記に「参考研究報告」として示しておきました。注目した点は以下の通りです。

  • 牛も人も排卵に近づくと頸管粘液は増え、性状は精子の保護や精子が卵子に到達しやすいような条件を作る。                                           
  • 牛の発情期の頸管粘液pHは7.0以下の弱酸酸性が多く、膣のpH6.0以下と大きく違っており、受精しやすい状況を作っている。                                     
  • 乳牛において、発情時の頸管粘液pHが7.0以上になると受胎率はそれ以下に比較し、低下する傾向にあり、pH7.4以上ではその例数は少ないものの受胎した牛はいなかった。

私もある試験のため、留置型のルーメンpH装置を使ってルーメンpHを継時的に調査していた時、子宮頚菅粘液のpHとの関係に興味があり、数頭、膣にpHセンサーを入れ連続的なpHの測定を試みました。1頭のみがセンサーが膣に保持され、関係をみることができました。
結果は日内のルーメンpHの変化と膣内のpHの変化に類似性があったことに驚いた次第です。本牛はシダー(「イジーブリード」)にpHセンサーを装着したものであり、その牛の卵胞ホルモン(エストロジェン)の影響は少なかったとみています。

この例をみるように、子宮頚菅粘液pHもエストロジェンのような性ホルモンだけでなく、食餌性の酸・塩基平衡(イオンバランス)に影響を受けている可能性があり、単純ではありません。
しかし、尿pHの測定が分娩前の低カルシウム血症のリスクの判断の目安の一つになるように、頸管粘液pHの測定もその牛が受胎しやすい体内環境になっているかを知る目安にはなると判断しています。

子宮内膜炎や尿膣の牛の頸管粘液測定では発情時のpHはアルカリであることが多く、確定診断を仰ぐきっかけになります。
また、AI後(発情後)1週間ほどの黄体期の時に頸管粘液pHが7以下であれば、血中プロゲステロン値も高いことを示唆する研究報告(H20年岩手農業センター試験研究成果書)もあります。
膣鏡やシダーの挿入器を利用し、センサーがフラットのpHメータを用い、頸管部の粘液に直接触れることができれば、pH測定は可能です。

冒頭の図は、牛の血液のpHをコントロールする血漿中の陽イオン、陰イオンのバランスを表しています。頸管粘液pHもこの酸・塩基平衡の影響を間接的に受けていると捉えています。

(参考研究報告)
・「乳牛の発情期頸管粘液pH値と受胎成績」(「家畜繁殖誌」21巻4号)
・「牛の性周期中における子宮頸管粘液pHならびに電気伝導度の変化」(「家畜繁殖誌」25巻1号)
・「正常婦人の膣内容及び子宮頸管粘液諸性状の周期的変動に関する知見補遺」(「順天堂医学」6巻1960年)

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。