発酵TMRで見逃されていること(1)「牛にとってアルコール摂取による代謝的影響は?」

これまでのブログの内容は、食品副産物に関連したことを多く取り上げてきました。
牛に多く使われている食品工場等からでる副産物は、水分が高いものが多く、TMRの原料として組み込み、このTMRを密封貯蔵すれば、多くは乳酸・アルコール発酵することになります。過去のブログにおいても述べてきたように、この発酵TMRは、国内の公的機関等により調査、研究され、多くのことが明らかになっています。

しかし、この発酵TMRの調査は乳酸菌を視点とした調査が多く、酵母によるアルコール発酵にはあまり触れていない報告事例が多くみられます。
一般に通常の牛の飼料メニューでは、酒粕やリンゴ粕サイレージの組み入れを除き、牛のアルコールの摂取は少ないのですが、発酵TMRでは、アルコールの摂取は少なくなく、牛の代謝に及ぼすことが多くなります。
そこで今回は、このアルコール(主にエタノール)に焦点を当て、牛への代謝について簡単に整理します。

乳牛、肉牛へのエタノールの給与による影響の研究は、過去、国内の研究機関等も実施され、1985年には一般社団法人アルコール協会を中心に5年間調査されています1)
その中での報告で注目したのは、「分娩直後のアルコール投与効果」の試験結果です。

分娩牛への100gのエタノールの給与はTDN115gほどのエネルギー源ですが、血行促進効果があるためか、有意に胎盤排出時間が短くなっています。実際、これに呼応するように分娩前後の添加剤として、エタノールが添加されている市販商材が散見されます。

下記に示すように、発酵TMR中の糖(ブドウ糖)は、酵母が代謝することにより、乳酸菌の代謝とは異なり、理論上は100gのブドウから51gのエタノールと49gの炭酸ガスが発生します。そのため乾物ロスは大きいことがわかります。しかし、牛におけるエタノールのエネルギー価は高く、先の調査例では、TDN115%との記載がありました。つまりエタノールは高エネルギーの範疇に入ります。しかし、揮散しやすいため、発酵TMRを開封後は、できるだけ速やかに給与したいところです。
<エタノールの化学反応式:C6H12O6⟶2 C2H5OH + 2 CO2>

アルコールのルーメンにおける代謝については、参考資料2)の「ルーメン発酵及びルーメン微生物の代謝に及ぼすエタノールの影響」が参考になります。

牛がアルコールを摂取すると先ずルーメン微生物により代謝され、酢酸、カプロン酸等の低級脂肪に代謝されます。ルーメンでの代謝を免れたアルコールは血中移行し、人と同様、肝臓で代謝、糖新生され、エネルギー源になります。

夏季に製造された発酵TMRは、乳酸発酵が強くなり酢酸が多くなります。そのような乳酸菌発酵主体より酵母菌によるアルコール発酵が強いものを牛は好むようです。
しかし、アルコール発酵が強い場合、発酵前TMR材料中の糖からエタノールが生成されるため、乳酸発酵と同様、ルーメン微生物のエネルギー源である糖が少なくなるためこれを考慮したTMR設計が必要になります。

次回はTMRを発酵せることによる有機酸カルシウム(主に乳酸カルシウム)の生成ついて整理したいと思います。

(参考資料)
1)「飼料用アルコール」(マニュアル):「アルコール飼料化研究推進委員会」(平成3年3月、社団法人 アルコール協会)
2)「ルーメン発酵及びルーメン微生物の代謝に及ぼすエタノールの影響」:「栄養生理研究会報」38(1):37-54 1994

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。