牛にとって蛋白質はエネルギー源?

人や牛など一般に蛋白質は筋肉等のからだの主要な構成成分とみなされ、エネルギー源になっていると認識している方は多くないように感じています。

猫は肉食が主ですが、通常の餌中の蛋白質割合は凡そ全体の栄養素の25%以上であり、牛が食べる飼料中の蛋白質割合(凡そ20%以下)とは違っています。そのため蛋白質が代謝された残余物の窒素である血中尿素態窒素(BUN)も猫の基準値では凡そ16~36㎎/dlであるのに対して、泌乳牛の基準値は20㎎/dl以下です。猫は肉食が主であるため蛋白質を牛より多くエネルギーにしているということになります。

また肥育牛の血液を調べてみるとわかりますが、多くはBUN値が20㎎/dl前後と泌乳牛に比較し高い値を示しています。しかし、肥育牛の食べる餌の蛋白質含量は泌乳牛より低いのが一般的です。

それではなぜ、肥育牛は泌乳牛よりBUNが高い値を示すのでしょうか? 

それは猫と同様、蛋白質を少なからずエネルギーとして使っているためです。決して泌乳牛のようにルーメンの過剰なアンモニアが主体でBUNが高くなっているわけではないのです。

BUNやMUN(乳中尿素態窒素)が高いと受胎に影響するという報告が多くなされています。確かにルーメン中の過剰なアンモニアが血中に移行した場合、受胎に影響することは十分考えられます。しかし肝臓においてアミノ酸が糖新生によりエネルギー化する際に発生するアンモニアによる影響とは区別する必要があるでしょう。

泌乳牛においても、泌乳後期、要求量以上の蛋白を供給した場合、その余剰はエネルギーとして利用され、その残余は尿素態窒素になります。そのため、同じTMR等を給与しても泌乳後期のBUN/MUN は泌乳前期より高い傾向があるのはこのためです。

それでは、泌乳牛のBUN/MUNの高値がルーメンからの過剰のアンモニア由来か、肝臓におけるアミノ酸の代謝によるかものかを見当する方法はあるのでしょうか? 

現状では、飼料計算上のRDP(ルーメン内分解性蛋白質)、RUP(ルーメン内非分解性蛋白質)の充足率が一つの目安です。本センターのTMRは前報で触れたとおり、一般のTMRよりDDGS(コーンの蒸留粕)やビール粕の組み込みにより飼料からのバイパス蛋白が高いため、例え牛群のMUNが基準値より高くても、BCS(ボディコンデイションスコア)の増減、糞性状、乳蛋白率、乳糖率等、総合的に判断してから、ルーメンからの過剰のアンモニアによるものかどうかを見極えます。

今回は牛におけるルーメンでの過剰なアンモニアについて触れました。しかし、人等の代謝で問題となるアンモニアは腸内微生物による発酵によるアンモニア発生です。これを少なくすることが肝臓の負担を少なくし、健康への影響を少なくことが知られています。

次回は牛における腸内発酵によるアンモニアの影響について整理したいと思います。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。