人等と同様、牛も不消化の蛋白質等が腸内細菌に分解された場合、アンモニアが発生し腸管から血液に一部吸収されます。ネズミ等の実験ではこのアンモニアの発生が大きい場合、肝臓では処理しきれなくなり高アンモニア血症になります。子牛においても和牛などでは腸内の異常発酵等により高アンモニア血症になることが知られています。
しかし、ルーメンにおけるアンモニア過剰やその影響の研究報告は数多くありますが、国内の文献を見る限り、泌乳牛における腸内のアンモニアの生成、代謝に関する詳しい報告はないようです。一般に腸内のアンモニアについては栄養的に問題にしていないようです。
前報でも触れたDDGS(トウモロコシ蒸留粕)は本TMRセンターにおける主要な原料の一つであり、本品の腸内発酵への影響に少し触れたいと思います。
私の過去、乳牛や肉牛のDDGSの給与試験に携わった経験では、DDGSは同じ蛋白源である大豆粕に比較し軟便になる傾向が少ない結果でした。
この理由は推測の域を出ませんが、腸内においても飼料原料によって腸内細菌に分解される分解速度や分解量が違うためではと捉えています。つまり、飼料のルーメンでの蛋白質の分解速度が腸内にも当てはまっているのではいうことです。
実際、ルーサンや大豆粕を多くしてTMRの蛋白含量を高めていくと、糞のpHが変わり、色調も変化していきます。これも腸内細菌よる蛋白の分解が関与、アンモニアの発生量にも影響している可能性があります。
これまで泌乳牛にとって、腸内発酵はルーメン発酵に連動する程度にみられているのが現状でした。しかし、腸管免疫と乳房炎などの炎症との関係の研究報告も出るようになり、腸管が免疫において重要な役割をしていることが牛においても一般に知られるようになりました。泌乳牛においても、飼料メニューや給与方法によっては、腸管内でのアンモニアの過剰が腸内細菌を介して、腸管免疫にも悪影響を及ぼしている可能性が出てきます。アンモニアは毒性が強く、牛においても腸管内での発生を少なくすることが当然必要になってきます。
ルミノロジーの研究が始まった頃の泌乳牛は、今の泌乳牛に比較し、乾物摂取量も低く、乳量も少なく、栄養素のルーメンバイパスが違い、腸内にデンプンや蛋白が過剰となる腸内発酵は少なかったと推察しています。これからは、ルーメン発酵と腸内発酵を連動させた研究や飼料設計をする必要があると判断しています。
次回はDDGSの給与試験に携わった中で、DDGSの蛋白のバイパス性を重視しすぎたあまりの失敗談に触れたいと思います。
(参考文献)「最近の乳牛の疾病発生状況」(小岩政照「牧草と園芸」第42巻第11号(1994))