何故、TMRを発酵させるの?(続編)

前報では、発酵TMRはフレッシュ(未発酵)のTMRに比較して、一般には割高になる条件があることを示めしました。それに対して、このマイナス面を超える飼料的価値を示すことが今後の発酵TMR普及のきっかけになると考え、私が発酵TMRの開発に携わった中で得られた知見の一部を紹介したいと思います。

1.発酵TMRはNFCを通常より増やすことが可能

一般にTMRのNFC(非繊維性炭水化物)をTMRのエネルギー量アップのため40%以上に増やしていくとルーメンアシドーシス、大腸アシドーシスになるリスクが高まります。それに対して生澱粉を糖化させる酵素を加え、さらに通常より炭酸カルシウムを増やします(カルシウムの過剰症にならない限度内、特許第4838877号)。
なぜ、アシドーシスのリスクが高まることなく、NFCを増やすことが可能であるかの理由は、加えた酵素によりTMR中の澱粉が糖になり、それを乳酸菌が乳酸等の有機酸に変えます。一般に有機酸が生成し、pHが低下すると乳酸菌の活動が弱まりますが、炭カルを加えると乳酸等の酸を中和し、pHを低下させないため乳酸菌は有機酸を生成し続けます。これにより通常より有機酸塩は大幅に増加、当初のTMR中の澱粉は減少します。
ただ、この方式では、ルーメンの発酵に必要な糖が少なくなるため、発酵TMRの他に別途、糖蜜等を0.5~1㎏程度加える必要があります。

2.飼料中のアンモニアの害を低下させることが可能

高水分等でアンモニア含量が高くなった不良発酵した牧草サイレージ等を給与せざるを得ない場合、そのサイレージと前述の酵素や糖蜜等を添加し、TMRの乳酸発酵により発酵TMRのpHを4.5以下に低下させます。これにより、サイレージ中のアンモニアはアンモニウムイオンになる割合が増し、ルーメンから血液へのアンモニアの吸収が遅くなる可能性があります。

3.TMR中のGABA等のアミノ酸を増加させることが可能

一般にGABA(γアミノ酪酸、アミノ酸の一種)は人においてはその摂取により鎮静作用や成長ホルモン分泌を高める作用があることが知られています。
発酵TMRの原料として、飼料米を組み込んだ場合、乳酸菌の代謝の結果のためか、GABAが増加することは確認しています。ただ、牛においてはGABAのルーメン発酵や代謝への影響の報告は見当りません。血中に移行した場合には人と同じような効果があるかもしれません。
また、発酵TMR製造時に蛋白分解酵素を添加すれば、各種ペプタイドやアミノ酸の生成量が多くなり、菌体蛋白量が増加する可能性はこれまでの研究報告等から、十分あります。

このように、発酵TMRに種々の機能性を持たせることは可能です。ただ今のところ実証的研究をする機関は表れていません。TMRの製造現場でこれらを実施し、実際、農家さんの牛に給与を行い、その効果が出るとすれば、共通して言えることは、今までより、乾物摂取量が上がったり、乳生産が上がったりする、これまでなかった兆候が表れるはずです。

(参考文献:「発酵TMRの飼料価値を高める技術」(「畜産の研究」第71号第2号(2017年))

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。