私が育成牛におけるバイパス蛋白に関する研究報告の中で注目した一つに国内関東地区等の試験場が共同で実施したホルスタイン雌育成牛の発育給与試験の結果です。詳しい内容は下記の参考文献を見ていただければと思います。 この試験結果から私が判断したことは、育成期、特別にバイパス蛋白飼料など気にせずとも、粗飼料を食い込ませルーメンを発達させ、ルーメンの菌体蛋白を増やせば、育成牛の骨や筋肉の発育に必要な蛋白は加熱大豆や加熱処理等でバイパス蛋白率を上げた価格の高い大豆粕など使うケースはあまりないということです。 私がバイパス蛋白源の飼料を給与した方がいいと判断するのは、育成牛へ給与するサイレージ等の粗飼料の蛋白組成の関係か、軟便ぎみの場合、既報でも示した腸内のアンモニアの低減を狙うためです。
牛は猫などの肉食動物と同様、蛋白をエネルギー源にできることを牛の栄養の基本の一つであることを強調しておきたいと思います。 養牛農家さんや技術者の方は、蛋白や脂肪のエネルギー化である「糖新生」という栄養学の基本を理解し、効率的な牛の飼い方、健康的な牛の飼い方に利用してはいかがでしょう(「糖新生」の利用に関して今後のブログでも触れていきます。)
先の共同試験の結果でも見られるように、授精月齢ぐらいまでの育成牛の飼料メニューにおいて通常の蛋白質レベル乾物14%をバイパス蛋白源等を使い16%にしても、骨や筋肉の発達に優先的に使われるのではく、通常の飼料の蛋白レベル14%でも蛋白が不足していないため、余剰な蛋白はエネルギーとして使われるのです。先の試験の結果では、尿中のへの窒素排泄量が有意に増加しています。余分な蛋白はエネルギーとして使われ、残余の窒素は尿素として体外に排出されているのです。 蛋白は糖や澱粉等の炭水化物に比較し効率の悪いエネルギーの側面を持っています。この効率の悪いエネルギーとして示されるものに「尿素コスト」があります。 蛋白がエネルギーとして使 われる場合、残余の窒素は体内で尿素に変わるため、その分のエネルギーが必要になります。
育成牛の場合、給与された「バイパス蛋白」が体蛋白として利用されない場合、効率がよくないエネルギー源になるとともに、長期に渡った場合、炭水化物に比較し肝臓や腎臓に負担がかかっているかもしれません。 一方、バイパス蛋白質は糖や澱粉に比較し、血糖値上昇作用が弱いことが知られており、泌乳牛の場合には代謝的にはエネルギー分配が体脂肪蓄積より泌乳への分配が高い可能性があるかもしれません。
是非、蛋白質による「糖新生」を正しく理解して、価格の高いバイパス蛋白源を上手に利用いただければと思います。
(参考資料) 「乳牛育成牛における初産分娩月齢の早期化に関する栄養学的研究」(石井貴茂 筑波大学博士学位論文、2012年) 「ホルスタイン種雌牛の成長過程における飼料中の第一胃分解性および非分解性蛋白質の構成割合に関する栄養学的研究」(織部治夫 筑波大学博士学位論文 2013年)