酪農においても糞尿の有効利用としてバイオガスプラント(糞尿等のメタン発酵によるエネルギー利用)を設置する農家さんが出てきています。
このメタン発酵においても牛のルーメン発酵と同様、嫌気性菌による有機酸(主にVFA:揮発性脂肪酸)が生成させており、メタン発酵のエネルギー収支がどうなっているか興味がわき、整理してみました。
牛は進化の過程で胃内に微生物を棲ませ、その微生物の酵素により繊維を分解しエネルギーにしてきた動物と言えます。それでも泌乳牛の繊維の消化率は飼料の種類にもよりますが、半分程度の消化率であり、飼料の乾物全体の消化率も65%程度です。
バイオガスプラント(発酵槽)には、ルーメン中にもいる古細菌の一つであるメタン菌を使いメタンガスを生成させ、それを発電用の燃料等に利用しています。
それでは、バイオガスプラントに投入した糞尿(有機物量:微生物のエネルギー基質)において、その乾物当たりどのくらいの有機物がメタンになっているのでしょうか。
文献等1)のデータから推定するとメタンガスの発生量はその牛糞尿等の成分組成により変動しますが、その有機物重量比10%程度のようです。
メタン生成菌が増殖に必要なエネルギーは、繊維等の高分子有機物の栄養素を分解する菌が生成する主に有機酸由来になります。発酵槽にはこれらの菌とメタン生成菌が共生することになります。
バイオガスプラントのメタン発酵は、ルーメン発酵と異なり、その細菌群の中ではメタン菌が優勢ですが、ルーメン発酵のメタンの発生によるエネルギーロスは一般には数パーセントです。 牛にとっては、その生成は自分のエネルギーにはならないものです。さらに牛から発生するメタンは地球温暖化の原因の一つと考えられており、この牛のメタンをルーメン発酵の制御により減少される商材も出てきている状況です。
以上からバイオガスプラントの発酵槽の中で起きている発酵とルーメン発酵とに類似点、相違点があることがわかりましたが、最近の研究では、バイオガスプラントの発酵槽にルーメン内容物を投入すれば、メタン発生量が増加することが示唆される研究も報告されています2)。
ルーメン発酵で行われている繊維の分解やその菌体の生成は、メタン発酵ではどうなっているか興味が持たれるところです。次回のブログでは、この点について整理したいと思います。
(参考文献)
1)「メタン発酵施設実証試験」(岡山総畜セ研報17:103~106)
2)「牛ルーメン液を活用したリグノセルロースバイオマスのメタン変換効率の改善」(東北大学大学院農学研究科)