堆肥発酵で見逃されていること(6)「堆肥中にも硝酸態窒素?」

私が飼料作物のサイレージ化による硝酸態窒素の低減の研究に携わった1990年前半では、土壌での硝酸態窒素生成を硝化菌が担い、それを作物が吸収するという程度の知識しか持ちあわせていませんでした。
実際にウィキペディアには以下の記述があります。
https://www.kaku-ichi.co.jp/media/crop/microorganism/nitrifying-bacteria
<硝化作用(しょうかさよう)はアンモニアから亜硝酸や硝酸を生ずる微生物による作用を指す。アンモニアを酸化し亜硝酸を生ずるアンモニア酸化細菌・アンモニア酸化古細菌、亜硝酸を酸化し硝酸を生ずる亜硝酸酸化細菌により反応が進む。これらの細菌は独立栄養細菌で、それぞれアンモニアの酸化、亜硝酸の酸化によりエネルギーを得る。有機成分の存在下ではほとんど増殖せず、死滅することもある。>
しかし、今回堆肥における硝酸態窒素に関して少し調べてみると、高温発酵しているであろう堆肥における成分として硝酸態窒素含量を示している研究報告1)が多数ありました。また、堆肥中の硝化作用をするのはバチルス菌の一種であるということを明らかにした報告2)までありました。
そうなると高温発酵した堆肥を大量に撒き、土壌への鋤き込み/撹拌が十分でない場合は、未熟堆肥以上に作物への硝酸態窒素が高まる可能性があります。
しかし、堆肥の発酵において、どういう条件で硝酸態窒素が高くなるかを推定するのはフィールドの場面ではむずかしいようです。

この対応策としては、堆肥中や土壌中の硝酸イオン等を測定し、窒素の施肥設計を適正にすればいいわけですが、農家さん自身の対処としては技術的なハードルが高く、早期の実践的な対応とは言えないところがあります。
やはり、既報のブログ(「硝酸態窒素の高い、乾草・サイレージは問題?」)で解説したとおり、先ずは収穫した牧草等飼料作物の硝酸イオンを簡易器等により測定し、高値であれば通常より気を付け、授精前後の牛や分娩前の牛への給与は減量や中止等の対処が必要です。
これからの時代は今回の対応策を見るまでもなく、酪農家さん自身が「酪農科学」を駆使して、リアルタイムに対応策を実践できる時代になっているのではないでしょうか。

(参考研究報告)
1)「茨城県で流通する家畜ふん堆肥の窒素無機化特性について」:茨城畜セ研報第 48 号(2016)
  「県内産家畜ふん堆肥の窒素無機化特性」:福岡県農業総合試験研究報告26号(2007)
2)「牛ふん堆肥から分離した高温性硝化細菌Bacillus sp. T3 の選択培地とその利土と微生物」:「土と微生物」Vol. 70 No. 2, pp. 51~55(2016)

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。