発酵TMRで見逃されていること(2)「発酵TMRが有機酸カルシウム生成?」

発酵TMRは、通常のTMR(フレッシュTMR:密封貯蔵を行わないもの)と異なり、発酵期間を設ける必要があるため、貯蔵場所の確保や密封用資材など、さまざまな追加コストがかかります。そのためか、TMRセンターや農家で製造されている国内の発酵TMRの生産量は、通常のTMRと比較して少ないのが現状です。

しかし、通常のTMRにはない飼料としての付加価値が発酵TMRには多く存在し、今後も新たな価値が生み出される可能性があると考えています。

その一例として、水分が約35%以上あるウェットなTMR材料を密封貯蔵(=発酵TMR化)することで、TMR中に配合された炭酸カルシウム等のカルシウム資材が、乳酸発酵によって有機酸カルシウム(主に乳酸カルシウム)へと変化することが挙げられます1)

牛においては、通常の炭酸カルシウムは消化・吸収率が低いことが知られていますが、密封貯蔵による乳酸や酢酸の生成により、これらが炭酸カルシウムと結合して有機酸カルシウムとなり、消化吸収率が高まる傾向があります。

また、TMR中の澱粉や糖が過剰になると、ルーメンや大腸でのアシドーシスのリスクが高まります。この過剰な炭水化物に対して、炭酸カルシウムを添加して有機酸カルシウムへと変換させることで、アシドーシスリスクを低減し、さらに糖新生の材料として利用することが期待されます。乳酸菌による澱粉の資化能力は低いため、酒粕や麹副産物などの消化酵素を作用させれば、発酵中に澱粉が糖化され、より多くの有機酸カルシウムが生成される可能性があります。

次に述べる付加価値については、研究による十分な検証がなされていないため、あくまで推測の域を出ませんが、以下のような仮説も立てられます。

泌乳牛に必要量以上の澱粉・糖を与えると、アシドーシスなどの代謝障害に加え、インスリン分泌が亢進し、泌乳後半には体脂肪の蓄積が進むことが予想されます。しかし、この過剰な糖・澱粉が有機酸カルシウムに変換されれば、インスリン分泌が抑制される可能性があります。

発酵TMRを設計する際に注意すべき点として、通常のTMR設計における「適正な糖・澱粉含量」をそのまま発酵TMRに当てはめた場合、乳酸発酵によって一部の糖質が消費されるため、ルーメン微生物に必要な発酵性炭水化物が不足する可能性があります。

実際に、公的機関によるTMRの発酵処理と未処理の比較試験では、発酵処理区の牛において血中ケトン体が高く、血糖値が低い傾向が見られ、未発酵TMRとの差として、インスリン分泌量の違いが関係しているのではないかと推測されます。

実験動物の研究では、糖や澱粉に比べて、酢酸や乳酸の血中吸収においてはインスリン分泌が低いことが示唆されています2)

以上、発酵TMRの飼料としての付加価値について整理してきましたが、これらの検証は大規模な牛群での実験が行われていないため、今後の研究や実地調査に期待したいところです。

(参考文献)
1)特許第5138159号:「ウェット飼料の製造」
2)“Insulin responses induced by glucose, ketone body or volatile fatty acids in Microtus arvalis pallas”:日本
獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science)48 (4), 855-858, 1986

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。