堆肥発酵で見逃されていること(12)「堆肥発酵で腐植物質が生成?」

過去のブログでは、腐植物質の特性と機能性に触れました。一般にこの腐植物質は土壌中の微生物が関与して生成されることが知られています。

今回は腐植物質が堆肥発酵や人為的な化学反応でも作られることに関し、整理したいと思います。
堆肥発酵による腐植物質の生成を詳しく知りたい方は、下記の1)、2)の研究報告等を参照ください。

牛糞尿主体の堆肥については、一般に圃場への施肥による肥料効果や土壌の団粒構造の促進が知られるところです。

ここではどのような堆肥発酵により腐植物質が多くなるかを簡単に説明します。
堆肥発酵でも腐植物質生成には、微生物が関与しています。特に腐植物質生成量は堆肥の繊維の分解量に関与するため、放線菌やバチルス菌が旺盛に増殖する必要があります。そのため牛の糞尿主体堆肥発酵では、水分調製が不可避であり、水分もできれば70%以下、堆肥品温は40℃以上の好気性発酵主体にする必要あります。

しかし、一般に農家さんが腐植物質である腐植酸やフルボン酸含量を測定することはむずかしく、その腐植物質が多くなっているかの目安は前述した好気性主体の堆肥発酵が実際行われている状況であり、官能的にしか言えませんが、糞尿の臭いの消えた、黒褐色の色調の堆肥になっていることです。

次に腐植物質の人為的な化学反応による生成について説明します。
市販されている製品の例では、「亜炭を硝酸で酸化分解して腐植酸をよみがえらせ、苦土で中和して製造します。腐植酸を40-50%含有し、堆肥の30倍の濃度に相当します。」との記載があります。施用により根の生長を促すとしています。

私が携わった事例では、下記の3)に示した「アミノ酸かすヒューマス」という土壌改良資材があります。
これは、調味料を作る際に出てくる副産物です。
3)の中での説明は「ヒューマスとは、脱脂大豆を塩酸と苛性ソーダで処理し、圧搾ろ過によりアミノ酸類を 分離した後に、その残さを水で十分に洗浄したものである。腐植酸が現物あたり2.83% と多く含まれ、陽イオン交換容量(CEC)が大きい」とあります。
何れも炭化物、リグニン等の難消化物が酸・アルカリと反応し縮合、重合して広義の「腐植物質」を形成しています。

このように「腐植物質」といっても、いろいろな性質を持つ種々の高分子の複合体であり、その生成の違いにより土壌へ作用も違いがあり、ひとくくりにできないものです。

堆肥発酵により生成された「腐植物質」は、施用することで作物の生長に寄与することは、一般に知られるところですが、そのメカ二ズムについては不明な点も多く、今後の研究に期待するところです。

冒頭の図は、腐植物質の中一つである「フルボン酸」の分子構造の一例を示しています。
多数の化学基が結合した高分子化合物であることが理解できます。

(参考研究報告)
1) 「圃場還元利用されている実際的な牛ふん尿堆肥にふくまれる腐植酸およびフルボン酸の化学的特徴」(日本土壌肥料学雑誌 第80巻 第4号(2009))
2)「家畜ふんたい肥の高度利用にかんする研究(腐植酸を指標とした家畜ふんたい肥の土づくり効果の検討)」(茨城県畜産センター研究情報44号2011年)
3)「有機性副産物「アミノ酸かすヒューマス」で乳牛ふん堆肥化時のアンモニア発生が抑制される」(畜産経営から発生する臭気の抑制及び脱臭技術の開発)(神奈川県農業技術センター2005年)

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。