高泌乳牛では、乳へのカルシウム移行量が多い中、添加した炭カルの消化率は低いと捉えて、要求量の150%以上与えている牛群が見受けられます。
今回、実際に試験研究された結果ではなく、あくまで私の、医学、乳牛科学に基づいた凡その推定として、泌乳牛に多量の炭カルを給与した場合の泌乳牛への影響を整理したいと思います。
粗飼料、濃厚飼料自体に含まれるカルシウムは、ルーメンで一部、溶脱、溶解しカルシウムイオンになっていきます。
泌乳牛の飼料中に醤油粕、豆腐粕、大豆等脂肪分の多いものを組み入れた場合、ルーメンにおいて脂質が溶解し、遊離脂肪酸が析出されます。
これらの一部はルーメンや腸内において、カルシウムイオンと結合し、脂肪酸カルシウムになることも一般に知られています。
そのため、上述のような脂肪が鹸化しルーメン微生物に必要なカルシウムが不足しないのか気になります。
炭酸カルシウム資材はルーメンpHにもよりますが、一般にはルーメンでのイオン化は低いのですが、多量の給与では、その一部がカルシウムイオンになることで、ルーメン中のカルシウムイオン量の低下を抑えたり、血中へのカルシウム移行量の低下を抑えているのかもしれません。
しかし、一方ルーメン原虫や細菌の菌体中のカルシウム、リン含有量は、学術的なデータは確認していませんが、酵母等の菌体成分から推測し、ルーメン原虫菌体のカルシウム含量に対してリン含量は10倍程度高いと推測され、ルーメン微生物のリン要求量はカルシウム要求量より高く、リン不足時にルーメン微生物の増殖が抑えられる可能性があります。
乳牛の場合、一般に尿pHが8台であればリンを過剰に給与しても、尿中への排泄はほとんどないでしょう。ルーメン、腸において、カルシウムと結合し不溶性の塩となり、糞中に排泄されます。
このことから飼料中のリンがルーメン中のカルシウムイオンとどの程度結合するかも気になります。
ルーメンではイオン化しにくい炭カル資材も、第4胃に入り、胃酸の影響でイオン化していきます。
この大量に給与され、残りの血中に吸収されなかったカルシウムは大腸において、一部陽イオンとして、大腸アシドーシスの緩衝材として働くことになります。
大腸アシドーシスの肝機能、牛の代謝、免疫機能への影響がようやく牛においても、一般に知られるようになり、ルーメンアシドーシスを防ぐ商材としての重曹と同様、大腸アシドーシスにおける、炭酸カルシウムの給与が注目されます。
唯、過去のブログでも指摘したとおり、血中に吸収された脂肪酸は通常はアルブミンと結合するのですが、過肥牛など分娩後大量に体脂肪の動員が起こり、血中の遊離脂肪酸量多くなったり、カルシウムイオンが高い場合その結合量も多く、血管内膜や心内膜に付着し石灰化することはないかとつい思ってしまいます。
また、今回の乳牛への炭酸カルシウムの給与を整理していく中で、KKマウス(Ⅱ型糖尿病モデル)へのカルシウム投与試験報告が目に留まりました1)。
それはカルシウムの摂取量の低下が内臓脂肪の増加につながるというものでした。もし泌乳後半や乾乳の過肥牛(インスリン抵抗性が高く、高血糖)でもそのようなことが起きるとしたら、炭酸カルシウムの要求量以上の給与は価値があります。
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1)「カルシウム摂取量の形態の違いがKKマウスの腹腔内の脂肪蓄積に及ぼす影響 (日本栄養・食糧学会誌:第64巻第6号 385-391)