前報のブログにおいて、高糖分の稲WC(ホールクロップ)のサイレージ化の場合、有機酸の他、乳酸菌の添加の有無に関わらず、主に酵母による発酵のため同程度の含量のアルコールが生成することを報告しました。
今回はサイレージの2次発酵におけるこの酵母の影響について、整理したいと思います。
サイレージの教科書や記事を見ると、2次発酵の原因となる菌として、ほとんど酵母とカビが挙げられています。これは多くのサイレージの2次発酵の試験研究報告を受けた結果でしょう。
しかし、私の中では整理できていないことがあります。
一般に酵母やカビを含めた酸素を利用する菌(好気性菌)は、サイレージ開封後、酸素呼吸によりサイレージ中の糖、有機酸、蛋白質等などを利用しエネルギー源(ATP)を獲得します。 真菌類である酵母やカビは、バチルス属(枯草菌、納豆菌等)などの好気性細菌より増殖スピードは遅いにも拘らずです。
また、細菌であるバチルス属はサイレージによる酸性条件など生育の悪条件では芽胞を形成して死滅を逃れていると想定します。
そこで、サイレージ化した飼料作物の菌叢を調べた研究報告を探して見ると、酵母やカビの菌数に比較し、バチルスが高い菌数を示している研究報告がありました1)。 また、サイレージ開封直後からの最初の発熱は、通常は増殖スピードの遅いカビは考えにくく、一般には酵母、好気性細菌です。
酵母の増殖によるサイレージ開封直後の発熱であれば、一般には酵母は蛋白をエネルギー源にすることは少なく、サイレージ中の残存糖や乳酸をエネルギー源にします。しかし、冒頭に示す、イタリアンサイレージの2次発酵に関する試験結果では2次発酵が起こったサイレージではVBN(揮発性塩基性窒素、主にアンモニア)は高い値を示しています2)。
そうすると、この研究事例では、2次発酵の原因は、バチルス菌等の蛋白もエネルギー源にする菌が主に関与していることが推定されます。
酵母はエネルギーの獲得として、大腸菌、バチルス菌等と異なり糖や有機酸が主体になります。そのため酸素を使いエネルギーロスにはなりますが、牛の健康に及ぼすアンモニアやアミンの害を考える必要はないのです。またカビのようにトキシンの発生も考える必要はないのです。
有用な乳酸菌や酵母を添加して、「ぼかし飼料」という発酵飼料を作る技術があります3)。
この発酵飼料は、飼料を加熱殺菌後、麹菌、乳酸菌、酵母等の菌を添加し、酸素を完全に遮断してサイレージ化するものではなく、発熱もあります。このようにエネルギーロスはありますが、乳酸菌や酵母を増やしその機能性をねらっているのです。しかし、他の菌が増殖、アンモニアが高まるまでは発酵させないポイントがあります。
味噌や醤油等の発酵食品も酸素を完全に遮断するものではなく、麹菌の種々の酵素を使い、乳酸菌と酵母の拮抗・共生関係から生まれたものです。これらの発酵食品でもアンモニアやアミンの発生は考えなくてよいものです。
サイレージ中の乳酸菌、酵母、バチルス菌等の好気性菌、あるいは糸状菌がどのように関係して2次発酵が起こるかは私の中では整理できていませんが、サイレージの調製や給与の基本中の基本は、やはりできるだけ酸素を遮断するサイレージ調製、そして牛に有害なアンモニア、アミン、トキシンをださせない給与であると捉えています。
私の中では、ある添加剤によりサイレージ中の酵母やカビの増殖が抑制される場合、他の好気性菌も抑えられているため、2次発酵が防がれていると、どうしても考えてしまいます。
(研究報告)
1)「刈取回次別のチモシー(Phleum pretense L.)とオーチャードグラス(Dactylis glomerata L.)混播牧草の付着微生物菌種構成、化学成分およびサイレージ発酵品質」(日本畜産学会報81巻3号(2010年3月))
2)「牧草及び飼料作物の栽培・利用技術(1)ロールベールラップサイレージ開封後の経時的品質変化(平成13年度試験報告書31:39~42(2022年)、大分県)
3)みのり産業有限会社ホームページ(http://minorisangyo.net/service.html)