一般に油脂含量10%以上の飼料原料の組み入れが少ない通常の乳牛用配合飼料等を泌乳牛の濃厚飼料として使う場合、TMRなどの飼料メニューでは油脂含量は3%台です。それらの飼料メニュー中の濃厚飼料の置き換えとして、不飽和脂肪酸含量の高い豆腐粕や醤油粕等の食品副産物を組み入れることにより飼料費の低減等、価格的にメリットある場合が出てきます。
ここでは、食品副産物を従来の飼料のエネルギー、蛋白の一部置き換えるに留まるのではなく、不飽和脂肪酸含量が多くなる特性を生かして、乳生産や乳生産の粗利益を上げる給与方式について整理したいと思います。
- 国内の公的研究機関等で実施された、豆腐粕等の不飽和脂肪酸含量の多い飼料を組み入れ、飼料メニューの脂肪含量が4~6%とされたメニューでは、乳脂率が3.5%切ることは一部を除き示されていませんでした。
- 一般に不飽和脂肪酸の多い飼料を多給するとルーメンにおける繊維の消化率を低下することが知られています。この消化率には油脂含量(特に不飽和脂肪酸含量)やルーメンpHに大きく影響を与える有効NDF(飼料の物理性)やルーメンマットの形成が関与しています。しかし、それらの関係は正確には定量化されていません。
- これらの知見や私が携わった豆腐粕、醤油粕、DDGS等の不飽和脂肪酸含量の高い飼料を組み入れた給与試験等より、不飽和脂肪酸の多い飼料メニューと牛群の反応(乳生産、乳成分等)の関係を凡そ整理した中、以下の給与方式によって乳生産のアップや乳生産における粗利益アップが可能ではと捉えています。
- 豆腐粕、醤油粕等の不飽和脂肪酸含量の高い飼料の組み込みにより、飼料メニュー全体の油脂含量を乾物4.5~5.5%にする。この方式により、現状より乾物摂取量が変わらず、バルク乳脂率が0.2%程度下がった場合、平均乳量が30㎏程度であれば乳生産は1.5㎏程度の増加が予想されます。乳脂率が基準取引き内であれば、乳脂率0.2%低下による乳価の低下は0.3円程度であり、1頭当たり平均乳量30㎏×0.3円であり、1頭1日の乳代は9円下がることになります。それに対して乳量1.5㎏増による1頭当たり乳代のアップは、仮に乳価を100円とした場合、1.5㎏×100円(乳価)となり150円です。これを年間ベースにすると粗利益は泌乳牛1頭当たり99.7円×1.5㎏×365日となり、凡そ5万円となります。
- この方式を成功させるためには、想定以上にバルクの乳脂率が低下した場合や受胎成績が本方式を取り入れ、悪化してきた場合の実践的対応策を準備しておく必要があります。ここでは、その対処法の一例を示します。
- ① 乳脂率を低下させる作用の大きい豆腐粕等を減量する。併用している粗飼料の品質を上げ、粗飼料の摂取量 を増加させる。 ② 繁殖の悪化の対策としては、豆腐粕等の組み入れと他の要因が絡み合った複合的要因であることが多いため、乳脂率、乳蛋白、MUNの値やそのバランスに問題ないか、あるいは、マメ科の飼料が多くなりエストロジェン様作用が多くなっていないか等、整理し、上記①の対処法の他、血液検査により、給与飼料のエネルギー、蛋白、油脂、ミネラル等のバランスの良否を判断します。