牛の飼料・サイレージで見逃されている点(8)「酵母は好気環境下でもアルコール発酵する?」

この回答は、ブドウのような糖度の高い果物を容器(密封ではない)に入れて貯蔵した場合を想像してみてください。多くはアルコールが生成しています。

一般に酵母は密封状態でアルコール発酵しますが、活動のためのエネルギー(ATP)生産は低く、また菌体量の増加も好気的発酵の2割程度のようです1)
またサイレージ貯蔵初期の酸素がある状態で好気性細菌が増殖する中で、酵母類の中一部の菌種がアルコール発酵し、それを抑えています。
そのため、糖含量の高い果実類の副産物は、密封の有無に関わらず、アルコール発酵し、外気温が概ね10℃以上の場合は早期に給与するか、TMR等に組み込みこんでアルコール生成を抑える必要があるわけです。
アルコールは単位重量当たりのエネルギーは栄養成分でいけば、脂肪の次に高いのですが、揮発しやすいため、牛のエネルギー源としてはロスしやすく、また過剰に与えると牛乳中に移行するなど問題が起きてきます。

この質問に関する専門的な解説は、別添下記の記事1)2)を参照していただくとして、今回は、飼料作物や食品副産物等の糖含量の高い飼料をサイレージ化(密封貯蔵)する場合には、この点を理解した中で、貯蔵等の留意点を整理していきます。

これまでのブログでも、牧草・飼料作物等において糖含量が高い場合(概ね原物2%以上)に密封貯蔵した時には、アルコール発酵が生じうることを理解いただけたと思っています。
しかし、リンゴ粕、パイン粕等果実類の副産物でさらに糖含量が高い場合は、酸素が入る状態で貯蔵した時にも、アルコール発酵し、しかも酵母は増殖し、菌数は高い値を示しています。

さらに、酸素のある状態でアルコールを生成し、好気性細菌を抑え、菌体量が増える酵母類の中に‘ S.Cerevisiae’あり、これは醸造用で多く使われる酵母です。そしてこれは、「イーストカルチャー」等と称される、牛の微生物資材になる菌種です。
このように糖含量の高い果実類副産物は酸素の有無に関わらず、貯蔵した場合、アルコール発酵し原物2~3%の高アルコール含量になることもあるため、牛のアルルコール許容量から言えば、泌乳牛であれば、原物20㎏以内が無難です。

是非、糖含量の高い副産物を飼料に利用する場合の酵母の増殖について理解し、その飼料価値を高めて利用してもらえればと思います。


冒頭の写真は八千穂TMRセンターにおいて、TMR原料の一部として使われている「リンゴ屑」(リンゴの芯や皮など)

(参考記事)
1)「酵母の増殖」(「日本釀造協會雜誌」第69巻第1号(1974年)) 2)公益法人日本醸造用協会HPより(「新・酵母の話」④「パスツール効果とグラプトリー効果」)


この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。