牛の栄養代謝の素朴な疑問(5)「長物粗飼料なしの乳用育成牛の飼養は可能?」

標題の答えは可能です。
この問いの回答は、過去私が携わった乳用育成牛の給与試験の一つから得られた結論です。
給与飼料は主に繊維含量が高いペレット飼料が主体でした。哺育期は代用乳等の液状飼料を給与しましたが、出生後1週間から乾草などの長物粗飼料なしのペレット飼料主体で飼養した5頭の結果です。
この方式で気を付けたのはやはり、通常の乾草等の長物粗飼料給与(慣行法)に比較し、「がさ」がないため、ルーメンの容積が大きくならないことが懸念され、生後6ケ月以降はエネルギー摂取量をほぼ同じにした中、給与飼料全体のエネルギー価を下げ給与量を1.2倍ほどにしたことです。
この5頭の分娩後の乳生産量は次年度に分娩した慣行飼育5頭に比較し、最高乳量が平均2㎏ほど低い値でした。
育成時の受胎成績は、慣行法と大差はなく、受胎までのAI回数は1.2回、受胎月齢は15~18ヶ月(平均16.9ヶ月齢)でした。
この調査は今から30数年前に実施されたものであり、調査記録の精度も試験研究とはいいがたいものです。
その中で、なぜあえて取り上げたかったというと乳用育成牛飼育や泌乳牛の飼料メニュとして、乾草等の長物粗飼料を与えなくても、牛のルーメンの容積を大きくし、またその容積を満たす飼料を給与すれば、一般的な育成、経産牛飼養が可能ではと判断しているからです。

現在の一般的な輸入粗飼料の単価コストから判断すれば、ビートパルプ、ヘイキューブ等主体の本方式による育成に掛かる飼料費は2割以上増加します。
また気になるのはルーメンマットの形成です。

しかし、飼料費に関しては国内の繊維含量の食品副産物を粗飼料源にした場合はどうでしょう。食品副産物の中には、乾草やワラ類と同程度の繊維含量があるものがあり、エネルギー価が低いものであれば、乾草等通常の粗飼料と同じ容積にするために給与量を1.5倍程度にしても、育成牛や泌乳後半の牛であれば、栄養バランスやエネルギー充足を適正にするのは可能です。飼料費も通常の乾草等より本飼料の乾物単価が4割程度低くなれば問題にはなりません。しかし、この内容は泌乳牛においては、乾草等の長物粗飼料無給与で乳生産、乳成分、受胎等の生産性に問題ないことを確認したものではなく、あくまで泌乳牛の食品副産物多給方式を実施した経験を通した、延長線上の「仮説」であることを理解いただければと思います。

冒頭の写真はエリンギがポット培地で育ったものです。この培地がコーンコブ(コーン子実中の芯の部分)主体であれば、エリンギ収穫後のこの培地は牛の飼料になります。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。