前回、牧草サイレージ等の調製において、乳酸菌より酪酸菌が優勢になった場合、酪酸が増加すると同時にアンモニアも高くなることに触れました。今回はこのアンモニアの毒性を少なくする方法について整理したいと思います。
一般に牧草の水分が75%以上ある場合、低糖、高緩衝能ではpHが5.0以上になることが多く、アンモニア含量が高くなり、刺激臭が強くなります。サイレージの品質評価では全窒素に対するVBN(揮発性塩基性窒素、ほとんどはアンモニア)の割合で示されます。しかし、牛への代謝や受胎への影響を見る場合には、アンモニアの摂取実量が問題になります。
牧草サイレージの不良発酵の指標として酪酸含量に注目する報告が多い中、アンモニア含量に着目した研究報告が目に留まったので紹介します。
「給与飼料の不良発酵による揮発性塩基態窒素の上昇が泌乳牛の代謝、免疫機能および受胎に及ぼす影響」(角田 英 学位論文(2016年))
http://id.nii.ac.jp/1588/00001388/
この論文では、サイレージのアンモニア含量が高くなり、それを組み込んだTMR中の含量が平均約0.6%になった時に他の時期より多形核白血球の活性酸素種(ROS)が増加し、有意に受胎率が下がる結果になったとしています。
一般に前述のように高水分で刺激臭の強い牧草サイレージでは、アンモニア含量が高くなることが多く、この害を少なくする処方箋を組む必要があります。
ポイントは嫌気的であるルーメン内において、このアンモニアをルーメン細菌に即効的なエネルギーを与えてアンモニアを菌体蛋白に変えるのです。またルーメン内をアシドーシスにならない範囲でpHを酸性域に保ち、アンモニアガスではなくアンモニウムイオンを多くして血中への移行を遅くします。アンモニアガスの状態では血液の吸収が早く、毒性も強まることが知られています。
肉用牛の尿石症の予防、治療に使われる塩化アンモニウムもその酸性の性質のためアンモニウムイオンになり、血中濃度が高くなりません。アンモニアはイオン化するか、ガス化するかで毒性は大きく違ってきます。
それでは、アンモニアの高いサイレージを給与しなければならない場合には、具体的どのような給与方式を取る必要があるのでしょうか?
私が農家さんに薦める処方箋は以下のとおりです。
1. 前述の「即効性のエネルギー」として糖蜜(糖蜜吸着飼料)を併用する。
2. 通常の飼料設計より溶解性蛋白や分解性蛋白を少なくする。
3. 大麦圧片等、ルーメンで分解しやすい澱粉(NFC)を多くする。
尚、冒頭の図は本論文の要旨を模式的に表しているものであり、論文から転用させてもらいました。