一般に乳牛の糞尿を敷料等に混ぜて堆肥発酵させても、その堆積期間が短い等のため「未熟堆肥」として、圃場に散布せざるを得ない場合があります。この場合の散布量やその後の飼料作物の播種時期が気になります。この対応として園芸等で実施されている「土ごと発酵」(農文協の提案)を参考に飼料作物への適応を整理してみました。
私が考える飼料作物における「土ごと発酵」とは、圃場の土壌中の微生物にその「未熟堆肥」に含まれるエネルギー源である炭水化物や窒素含有物を栄養源として与え、一般の堆肥と同様に分解してもらい、植物の生長を阻害しない土壌の団粒構造等に寄与する有機質肥料に変換してもらうことです。
一般に知られる圃場への未熟堆肥の弊害は、敷料等の水分調整材になる木質系のフェノール類の発生、急激なアンモニアの発生、糞中に含まれる雑草種子の発芽、あるいは本堆肥を過剰施用するための嫌気的な病害菌の発生等が想定されます。
逆に言えば、この弊害少なくすることができれば、「堆肥」として使えることになります。
私が堆肥の試験等に携わった経験では、確かに未熟堆肥そのものに播種すれば、発芽障害が起きます。しかし、未熟堆肥に育苗土等を混合した事例ではその未熟堆肥の割合によりますが、大きく軽減されています。また、自然流下式などほとんど糞尿主体の嫌気性発酵したものを圃場に長年撒いても、播種時期や施用量が適切であれば、作物の発芽障害、生長、硝酸態窒素高含有の問題が少ない農家さんも少なからずおります。
以上のようなこれまでの事例等から、圃場土壌の微生物による分解促進の方策を整理し、またその限界を科学的に押さえれば、未熟堆肥施用による飼料作物の栽培や牛の飼料としての弊害を少なすることは十分可能と判断します。
この有効な方策のヒントになるのが、酪農家の実際の堆肥投入量とコーンサイレージの硝酸態窒素含量、カリウム含量の関係の調査報告(下記参照)です。この報告では生堆肥を10a当たり10トン以上撒いても乾物あたりの硝酸態窒素は1000ppm以下であり、またカリウムも3.0%以下です。
しかし、牧草栽培においては、青刈りトウモロコシと異なり、生堆肥を10トン以上施用することはこれまでの過去の研究報告事例を見ても前述のトウモロコシサイレージのような硝酸態窒素やカリウム含量では収まりません。
一般に微生物による施用された未熟堆肥の分解の状況は、堆肥施用量、土壌との鋤き込み/攪拌割合、鋤き込み/攪拌頻度、品温、土壌条件、連用期間等多くの要因が関係しており、その基準を示す研究報告は見当たりません。
そのため牧草栽培においては、一般に知られる堆肥施用量を先ずは基準にするべきでしょう。
その中で誤解を恐れずに示すとしたら、先ずはトウモロコシ栽培では一回の鋤き込み/施用量は未熟堆肥10a当たり乾物3トン以内(原物では水分含量に応じて凡そ10~20トン)、牧草では乾物1.5トン以内(原物ではとうもろこしの半量)、施用/鋤き込み後の播種時期は冬季以外は2週間~4週間程度として、発芽、栽培状況を見てはいかがでしょう。
さらに一般の酪農家さんが自分の圃場への堆肥の施用量を決める一つの目安として、飼料作物の硝酸態含量を市販の硝酸イオンメータ(20年11月ブログ参照)での測定があります。私は生草やサイレージであれば、ニンニク搾りで搾った液汁の硝酸イオン含量を庭先で測定しています。これにより牧草の給与量の限界も把握することができます。
しかし、未熟堆肥を「土こど発酵」させても解決できない難点があります。それは生堆肥中の雑草種子の発芽です。雑草種子の死滅はこの方法ではむずかしく、牧草播種前等の薬剤使用が必要になります。
この問題を解決するには、やはり堆肥を高温発酵させること必須です。
次回は私が見逃していた堆肥発酵中の硝酸態窒素生成について整理したいと思います。
(参考研究報告)
「コーンサイレージの飼料成分に堆肥投入量が及ぼす影響」(神奈川研研報No.90. 2005年)