牛の代謝、栄養、飼料等でのトピックス(9)「牛の排卵診断薬はいつ販売?」

人においては、すでに自身の手で尿中のLH含量を半定量法ですが、排卵日を推定できる診断薬が市販されております。
牛においては、農家さんが発情を確認できない中、排卵して黄体ができている牛はどの牛群にも少なからずいるようです。現在、私が関わっている数軒の牛群においても、エコー検査等で実感しております。(LH:「黄体形成ホルモン」を指し、本ホルモンにより卵胞からの排卵を促進、黄体形成が促進される)

私が牛と関わって数十年たちますが、それ以降国内の統計を見ても経産牛の空胎期間は伸びています。この原因としてこれまで数大きくの研究報告がなされ、遺伝的な改良等による乳生産増加とホルモン代謝等の関係が注目され、また定時授精の方式やITを利用した発情発見も普及してきました。ただ、前述したように、発情兆候が弱まった中でも排卵している牛が多く、それらの牛を見つけることができれば、受胎成績がよくなると判断しています。

前述した人と同様、牛においても尿中のLH値を判断できる診断薬が市販されれば、牛群の空胎日数も短縮できる可能性があります。
すでに、牛の尿中のLH値から排卵日を特定することを目的にした研究論文も出されていいます(下記参照)。
これまでの説明から人用の診断薬を牛にも使えるのではと思う方もいらっしゃるでしょう。
実際、排卵時の牛の血中のLH値は研究報告にもよりますが、概ね人のLH濃度の1/2の以下にはなっていません。しかし、牛の尿中のLH値に関しては、人に比較し体重当たりの水分摂取量が多いためか、あるいはLHの不活性、分解が大きいためか、人のLH値の数分の1まで減少しており、人の診断薬では牛に使うことはむずかしいようです。

早く、牛においても農家さん自身が牛の排卵を推定できる診断薬が出てくることを願っている一人です。

(研究報告)
  Detection of urinary luteinizing hormone inJapanese black cows after administration of
 gonadotropin-releasing hormone  (J. Vet. Med. Sci.83(3): 431–434, 2021 )           
    

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。