最近、輸入粗飼料の値上がり基調が続いており、価格や供給量の不安定がある中、稲WCSの国内生産の重要性が増してきています。
私も過去、稲WCSや籾米の飼料価値についての研究に携わったことがあります。その中で一般に稲WCSや籾米についても見逃されている点がいつかあると感じています。
1)稲WCSは牧草より草種的に繊維の消化率が低い?
現在知られている稲WCSの刈り取り時期は、糊熟期以降であるのに対して、牧草の刈り取りは、多くは開花期までです。結実まで刈り取らないことはほとんどありません。また、稲WCSの特徴上、珪酸含量(ミネラル含量)が高いため、その分エネルギー価も低くなります。その中でも、稲WCSを乳熟期以前に刈り取ることができれば、稲WCSの繊維の消化率はチモシーの開花期並みにはなります。そうすると他の輸入乾草の繊維の消化率、エネルギー価と遜色ないことになります。
2)稲WCSは牧草よりサイレージ化すると酪酸発酵しやすい?
稲WCSの多くの品種は、牧草と同様、トウモロコシサイレージよりは糖含量が低く、水分を少なくとも70%以下に落とさないとエネルギーロスや牛の乳生産に悪影響を与えるアンモニア含量が高くなります。牧草については、これを防ぐ方法として、乳酸菌の他、セルラーゼを添加する方式が普及しています。稲WCSについては、糊熟期以降の刈り取りと茎葉表面の珪酸含量が高い一因もあり、セルラーゼによる糖化は牧草並みとはいえません。
しかし、もう一つの方法があります。それは、稲の茎葉中には生澱粉が蓄積されており。それを糖化する酵素を添加すれば可能です。私は稲WCSの茎葉中の澱粉含量を品種、生育ステージ毎に詳細に整理しているデータを持ち合わせていませんが、少なくとも糖、澱粉を含めたNSC(非構造性炭水化物)は糊熟期以前であれば、多くの品種は乾物当たり10%以下にはならず、生澱粉を糖化できる酵素を使えば、良質サイレージ発酵のための糖化量は足りることになります。
糖含量の高い極短穂茎葉型の品種が稲WCSの作付けの主流になるまでは、高水分材料の発酵品質不良の窮余の策として、生澱粉を糖化できる酵素添加は生きてくると判断しています。
3)籾米サイレージは乳酸発酵?
稲WCSのみならず糖含量が高いサイレージ材料の場合、乳酸菌添加有無に関わらず、アルコールの生成があることは過去のブログでも触れていますが、籾米についても同様です。特に前述の説明にあるように、生澱粉を糖化する酵素を添加するとその添加量により、有機酸とアルコール含量がコントロールすることが可能になってきます。
乳酸・アルコール発酵させた場合、多くは牛の嗜好性もアップします。また人で注目されている機能性物質のGABA(γアミノ酪酸:アミノ酸の一つ、生体の神経伝達物質の一つ )等も生成されます。
澱粉の一部は有機酸、アルコールに変化し、さらにサイレージ化の際に炭酸カルシウム等を添加しておけば、酸度は上がらず、未発酵より、ルーメンアシドーシスの危険性も少なくなる可能性があります。
4)牛にとって稲の珪酸は?
稲には牧草と異なり、珪酸(シリカ)が多く、肉牛など過剰に摂取した場合、尿石症の一因になります。
一方、珪酸を含有する多孔質物質はカビ吸着材として利用されています。それは一般には消化管内の作用であり、血中への移行は想定されていません。しかし、稲の珪酸は血中に移行するため、血中に含まれた場合のトキシン等の吸着などの作用の有無は興味がつきません。人では珪酸(シリカ)が不足する場合の研究報告があります。牛においても稲などの血中に移行する珪酸についての生体内への影響の研究が進んでほしいところです。
尚、写真は乾乳牛にWCS(乳熟以前)を飽食させている状況です。
(参考ホームページ)
一般社団法人 日本珪素医科学学会 (jmsis.jp)