今回、私がお話ししたいことはサイレージ研究に関係していた時に、ある乳酸菌の添加に於いてサイレージの乳酸発酵が進んでいるのにサイレージ開封時の乾物ロースが高い値を示していたことから始めます。当時は測定誤差ぐらいに捉えていました。ある時、あるサイレージ添加剤のホームページにサイレージ調整に於ける乳酸菌と無添加の乾物ロスのデータ(https://www.nastokyo.co.jp/reports/siloguard/)が目に留まり、その結果は無添加より乳酸菌添加の方が乾物ロスが少なくなるはずなのに違っていました。
私のそれまでの知見では、多くのサイレージの研究報告から乳酸菌添加によりサイレージの乾物ロスは少なくなるというものでした。
乳酸菌は通性嫌気性菌であり、酸素があっても増殖はするということは知られるところです。しかし、サイレージ発酵において、乳酸菌の中には酸素を使ってエネルギー獲得する代謝様式があるなど、サイレージの研究報告にはありません。
そのため、乳酸菌の中には酸素を使うものがないかと研究報告を探していたら、WEB記事等( https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/report/genome/02/)に酸素を消費する乳酸菌の最新の情報が記されていました。これらの乳酸菌はサイレージ密封初期に活動する乳酸球菌と同じ菌種でした。
ここからはあくまで私の推論ですが、乳酸球菌の中には密封初期に活動する好気性菌に先立ち、酸素を消費して増殖しているのではという疑問が沸いてきます。
さらに、サイレージ中の乳酸菌は酸素のある方が無いよりも増殖しやすいのではという疑問も出てきます。実際調べてみると乳酸菌の研究者にとっては密封時より増殖しやすいというのは特に不思議なことではないようです。
前報で触れたとおり、サイレージの早期密封はサイレージ調製の基本中の基本であり、遵守しなければなりませんが、酸素がある中で増殖しやすい乳酸菌の添加は発酵初期の好気性菌を抑えるには有効です。さらに前述のある種の乳酸球菌は酸素を消費するのに有効である可能性が強く、従来言われている好気性菌を抑える要因としての乳酸生成等とは違う作用があるかもしれません。確かに乾物ロスを伴う乳酸球菌等の好気発酵は経済ロスに繋がりますが、これが2次発酵等を抑えることに結び付けば新たな価値が出てきます。
以上、サイレージにおける乳酸菌研究も新たな視点で見直す必要があるのではと密かに思っています。