牛の飼料、栄養、代謝等でのトピックス(1)「牛の子宮内に乳酸菌?」

これからのブログは牛の飼料、栄養、代謝等であまり知られていないことで、私が注目していることを取り上げ、牛の飼料給与や健康、受胎に何が大切かを考えていきたいと思います。
第1回目は、牛の子宮はこれまで、通常は無菌と思っていたのが、実は健康な子宮は乳酸菌が主体ということをお話ししたいと思います。

このきっかけは人の不妊の原因の一つとして、子宮内の乳酸菌主体のフローラ(菌叢)に違いが生じているため、という記事を目にしたからです。
さらに一部の医学者の中にはラクトフェリン等の抗菌物質を経口投与して子宮内のフローラを正常化して人の妊娠率を上げるという取り組みまで実施されています。
このことは同じ哺乳動物である牛にも言えるのではと、研究報告を探したところ、子宮内に乳酸菌を投与して、受胎に好影響を与えるという報告がありました。
乳牛の腸内発酵が膣の細菌フローラ、さらにそれが子宮の細菌フローラに影響することは十分考えられます。 すでにルーメン/大腸アシドーシスによるエンドトキシン(細菌の内毒素)が血液、代謝を通して卵巣や子宮環境に影響することは知られるところです

乳牛の受胎に影響する大きな要因として、分娩後のNEB(エネルギーバランスマイナス)があることは周知のことです。しかし、これを濃厚飼料過給で実施した場合、前述のアシドーシスによる子宮等種々の器官に炎症や免疫異常を起こすことになります。
今後の泌乳牛の飼料給与、管理はエネルギーの充足に力を入れるとともに、腸内フローラ、子宮内フローラを考える必要があります。
特に分娩後エネルギーが充足し、発情、排卵しても受胎しないリピートブリダー牛は、この視点を忘れては改善しないのではと個人的には捉えています。

それでは、具体的にどのような飼料給与にすべきなのでしょうか?
難しい処方箋ではありますが、やはりアシドーシスのリスクを少なくする中でエネルギー充足をすることに尽きます。ただ、言うが安し、行うが難しです。
これは、既報のブログでも述べたとおり、分娩したら食い込める泌乳牛にするには、育成牛の「腹作り」であり、また乾物摂取量が多くなるような消化のよい粗飼料給与に尽きます。
前述のリピートブリーダーの原因の一つとして、潜在性の子宮内膜炎があります。病原菌や炎症を抑えるため、抗生物質が使われます。しかし、前述の人の不妊治療のように、牛の「自然治癒力」を高める処方箋は農家さんが実施できるものです。
受胎も「医食同源」、「薬食同源」であることは、最近強く感じる次第です。

(参考記事、研究報告)
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00021/103100004/?P=1
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29615632/

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。