一般に糞尿等の堆肥を多給して栽培した牧草・飼料作物はカリウム含量が高くなる傾向があり、多くの場合硝酸態窒素も高くなります。
カリウム含量の高い粗飼料では分娩前の牛に給与した場合、低カルシウム血症のリスクが高まります。また、牛全般について言えば昔から「グラステタニー」(低マグネシウム血症:カリウム過剰摂取により、マグネシウムの吸収阻害が原因)の障害が懸念されます。今でも飼料分析機関等の分析報告には「テタニー比」を載せているところが多くあります。
確かにカリウムが3%以上の高含量の粗飼料をそれ主体で乾乳牛や育成牛に給与すれば問題が起こる可能性はあります。しかし泌乳牛に給与した場合はどうでしょう。
私の捉え方としては、通常のTMR中、飼料メニュー全体においては、カリウム含量が低い配合飼料等の濃厚飼料が4割以上組み込まれるため、「テタニー比」(K/Ca+Mg)の基準値2.2を超えることはなく、またカリウム過剰による低マグネシウム血症のリスクもほとんどないと判断しています。
むしろ、濃厚飼料多給や暑熱時にはカリウム含量の高い粗飼料給与はアシドーシスのリスクを低め、体内のイオンバランス(DCAD)をプラスに作用させるものです。
分娩前の飼料は体内のイオンバランスプラス(陽イオン過剰)は避ける必要がありますが、泌乳期は逆に陽イオンを多くすることにより泌乳量アップに繋がることが知られています。乾乳期と泌乳期ではカリウム給与の考え方を切り替える必要があるのではと思います。
但し、糞尿多給堆肥で栽培された粗飼料は一般にカリウムが高いだけでなく、糖含量が低く、硝酸態窒素も高い傾向があります。またこのような粗飼料はサイレージにした場合、しばしばアンモニア含量が高くなり、この弊害を少なくする飼料設計の処方箋が必要になります。
次回は糞尿多給堆肥の栽培で問題となる粗飼料の硝酸態窒素について整理したいと思います。