牧草をサイレージ化する際、高水分等により発酵品質の悪化が懸念される場合、乳酸菌のみではその牧草の糖含量以上に乳酸などの有機酸は生成されず、糖含量が低い時にはブドウ糖などの糖添加ないし繊維を分解して糖にする酵素を併用する方法が出てきます。現状では糖添加よりハンドリングの面から乳酸菌と酵素を含む製品を農家さんは選んでいます。
それではブドウ糖添加と酵素添加ではサイレージ発酵は同じになるでしょうか?
私のいささかのサイレージ試験の中では以下の点が違っていました。
- ブドウ糖は密封直後から消費されるが、酵素により糖が生成され、サイレージ中の微生物に利用されるのは1~2日後の傾向が強い。
- 酵素添加により牧草中の消化性の高い繊維が分解し糖になり、それを乳酸菌が乳酸などの有機酸に変化させるため、そのサイレージを多く給与した場合、無添加よりルーメン中の酢酸生成量が低下するなど、乳脂率が低下する一因に繋がる傾向が強い。
一般に牧草サイレージの発酵品質が良好な場合、給与により乳脂率が低下することはないと捉えがちです。
しかし、ルーメン内で繊維を分解してエネルギー化している菌にとっては、酵素を添加した場合はすでに繊維の一部は乳酸等の有機酸になっており、またルーメン中の繊維分解菌が利用する糖もすでにサイレージにほとんどない状態です。
既報において、糖蜜を牛に給与した場合のルーメンでの影響を説明しています。糖を添加して乳脂率が上がることは一見矛盾しているように見えますが、そうではありません。糖は繊維分解菌を含め、ルーメン微生物が直ぐに利用できるエネルギー源であり、増殖を促すものです。
同じ牧草でも生草、乾草と酵素を添加した場合のサイレージとではルーメン発酵は異なり、酵素添加の場合、乳脂率が低下する場合があることは十分考えられます。
コーンをサイレージ調製する場合でも、乳酸菌と酵素を含んだ添加剤を使う農家さんがいます。
やはり牧草と同様、ルーメン発酵への影響を知っておく必要があります。
コーンをサイレージ化する際に酵素を添加すればその乳酸菌が増え、サイレージ詰込み初期の好気性の菌の増殖が抑えられ乾物ロス、エネルギーロスが少なくなる可能性はあります。ただ、コーンには一般に酪酸菌の増殖を促すほど、糖含量も低くなく、緩衝能も高くありません。濃厚飼料多給下でのアシドーシスのリスクがある牛群の場合において、牛にとって消化しやすい繊維を敢えてルーメンpHを下げる一因となりうる乳酸に変えるサイレージ調整方式を採用する場合、この点を配慮する必要があるのではないでしょうか。
サイレージ化する場合、やはり調整の基本である踏圧や早期密封をきちっと実施し、いかに好気性菌による酸素の利用を抑えるかに力を注ぐべきと考えます。