サイレージの教科書には、酪酸菌の主なエネルギーとして繊維は取り上げられていません。主なエネルギー源は糖、有機酸、蛋白質(アミノ酸)になります。
実際、酪酸/アンモニア発酵した牧草サイレージにおいてNDF(繊維)が材料草より低くなる研究事例は見当たりません。
しかし、人の腸内発酵の研究報告や記事では、腸内にいる酪酸菌の主なエネルギー源は「食物繊維」とされています。
私の中で考えやすいのは、やはり酪酸菌の資化しやすいエネルギー源が、生息する環境条件の違いにより、これを複雑化していると判断しています。
つまり、酪酸菌は多種類おり、牧草には、発酵前やその途中で糖、有機酸、アミノ酸が存在、生成されるため、それをエネルギーにできる酪酸菌が主に増殖する。それに対して、人の腸内では牛とは異なり、消化しやすいペクチンなどの水溶性繊維が多くあるため、それをエネルギー源にできる酪酸菌が増加しているのではと判断します。
酪酸菌はルーメン菌叢において、その一角を占める菌叢です。牛において、ルーメンからの吸収を担う粘膜上皮細胞からなる半絨毛では、その細胞のエネルギー源は酪酸であり、子牛のルーメン半絨毛上皮を発達させる重要な役割を担っています。
また人や単胃動物でも、腸内の吸収を担う上皮細胞の主要なエネルギーとされています。
さらにこれらの整理から、ルーメンや腸内の消化吸収能力が低い子牛にとって、ルーメンや腸内のエネルギー源として利用しやすいペクチン含量の多い副産物にどうしても注目をあてたくなります。
離乳後の子牛にとって、ミカンジュース粕/皮、バナナの皮、リンゴ粕等副産物が手当できれば、その点から給与させたい飼料になります。
更に酪酸菌(クロストリジウム)のグループに入る、人や牛の生菌剤と知られる「宮入菌」はクロストリウム・ブチリカムに分類されます。この菌種は一般にサイレージや腸内にも存在し、繊維を分解することができます。さらにこの菌種の中には、トキシンを産生し、人や牛に中毒を示す場合があります。牛の中毒では恐れられているボツリヌス菌は酪酸菌(クロストリジウム)に属しています。
一口に酪酸菌と称しても、その種類や生育する環境条件で人や牛にとって有用菌や病害菌になるこという、多様性を示しています。
(参考文献)
総説「短鎖脂肪酸の生理活性」(「日本油化学会誌:第46巻10号(1997)」