前報で述べたような、分娩前、簡易検査で「インスリン抵抗性」が疑われる過肥牛は、粗飼料の採食量が少なくなっていると推定されます。このような牛は分娩の低カルシウム血症になるリスクは高い傾向にあります。しかもこのような牛が3産以上であれば年齢的な要因も加わりさらにそのリスクは高くなります。
これを完全に予防する手立てを私は示すことはできません。一つのヒントとして、分娩前に乳房を切除した牛は低カルシウム血症にはならないという研究報告があります。分娩前代謝的に問題ない牛は、乾乳後期、濃厚飼料を基準通り増せば乳線も刺激され、分娩後の乳量も増加します。しかし、このような過肥牛では通常の飼料給与では低カルシウム血症のリスクが高くなります。そのため、乳線を刺激せず、しかも体脂肪の動員を少なくするというむずかいし飼料給与が求められます。私の少ない現場経験ですが、とにかく「良質」な乾草を給与し少しでも採食量が落ちることを防ぐということです。
一般に飼料計算(飼料給与モデル)では、この牛は乳量が30㎏出ているから、この分の栄養を与える必要があると判断します。
インスリン抵抗性が高いと予想される過肥牛ではこの捉え方ではなく、この牛の乳量を30㎏以下に抑えて、体脂肪の動員を少なくする方式がないかを検討します。この方式を一律に示すことはむずかしいのですが、一例を挙げれば、分娩後粗飼料(乾草)の喰いを見ながら濃厚飼料を給与し、乾物摂取量を少しづつ増やしていく方式をとります。乳量が30㎏出ているから濃厚飼料を規定量与えるという方式ではありません。このような牛は採食量が減少した時点ですぐに獣医的治療しなければならないことが多くなるからです。
インスリン抵抗性の高い牛は、インスリンが効きづらいため、体脂肪はどんどん減って肝臓や乳線に送り込まれます。さらにそこに暑熱ストレス等の酸化ストレスが加われば拍車がかかります。これは泌乳の正常な代謝ではく、異常な代謝であり、食欲不振になれば破綻する代謝です。
このように分娩前にすでに代謝的に異常な牛は分娩後特別のケアーをしなければ、経営的に大きな損出になるため、その損出を少しでも減らす手立ては、既報で述べた泌乳後期からの管理ということになります。