一般に牧草や青刈りとうもろこしをサイレージ化する際の基本は早期密封であり、また牧草においては、原物中の糖濃度を高めるため予乾が重要になります。これにより発酵初期の好気性菌によるエネルギーロスが少なくなり、また高水分、低糖による酪酸菌の増殖が弱まります。その結果、乳酸菌主体の発酵をさせることができます。
乳酸菌の増殖により,それが出す乳酸や酢酸等によりpHが低下し、他の菌の増殖を防ぐことになります。
上記のようにサイレージ化した時に牧草(特に高水分)では、芳香臭(エステル臭)はほとんどありませんが、コーンはその感じる頻度が多い気がしています。皆さんの経験ではどうでしょう?
その違いは原物中の糖含量や緩衝能にあるのではと判断しています。牧草はコーンに比較し原物中の糖含量が少なく、緩衝能も高い(カリウム等の陽イオンが多い)ため、pHが下がりづらく、酸度も低い傾向があります。そのため、乳酸発酵後の残存糖が少なくなり、酵母によるエステル等を生成するアルコール発酵が弱いためと判断しています。
ここからは私の推論ですが、サイレージ調製に問題ないコーンサイレージにおいても芳香臭が強くなる場合の理由について、サイレージ中の残存糖に焦点を当て整理していきたいと思います。
一般に酵母はサイレージ化において、他の好気性菌と同様増殖してほしくない菌です。これについては私も異論はありません。しかし、発酵性の酵母は結果としてサイレージの嗜好性をよくし、2次発酵を遅くする可能性があります。
その理由は以下のとおりです。
① サイレージ発酵中pHが4.0以下になり、乳酸菌の活動が弱くなってもトウモロコシには糖が残ってお り、耐酸性の酵母が増え始め、嫌気発酵であるアルコール発酵を始めている。
② アルコール発酵を始めた酵母もその糖を消費した後、活動を弱め菌数も低下していく。
③ 糖の消費や酵母により生成される抗菌性のエステルやアルコール類より開封後の2次発酵が遅くなる。
この推論を進めて、サイレージの密封貯蔵が保たれている場合、貯蔵期間を長くして、前述のようにしたたかに生き残っている酵母に糖を消費させる戦略をとってはということです。
私はどんなにサイレージの基本を守っても、乳酸菌の活動後に糖がある場合、酵母による代謝はあるのであり、通常の発酵ではこれを防ぐことはできないと過去、若干のサイレージにおける酵母を研究した私の結論です。
実際、本ブログでも紹介した「発酵TMR」は前述のサイレージと同様、密封貯蔵中に乳酸菌による有機酸生成の他、酵母によるアルコールやエステル類の生成は高いものがあります。牛の嗜好性はよく、2次発酵のリスクも少ないということで永年利用している酪農家もいます。
味噌、醤油等、日本の伝統である発酵食品には乳酸菌と酵母を競合/共生、コントロールして作られたものがあります。サイレージ、特に糖含量の高い飼料作物についても、乳酸菌と酵母の競合/共生関係を利用しコントロールする方式が作られてもいいのではと密かに思っています。