前回のブログでは、ルーメン発酵とバイオガスプラントによるメタン発酵の違いの一つとして、発酵産物であるメタン生成量を挙げました。今回はこのメタン発酵でも起きているメタン生成菌と共生している細菌による揮発性脂肪酸(VFA)の生成や繊維の分解能について整理したいと思います。
一般にルーメン発酵ではVFA量中の酢酸量は6割程度であり、その他プロピオン酸、酪酸等も4割程度生成されます。バイオガスプラントにおけるメタン発酵で生成されるVFAのほとんどが最終的には酢酸に変化し、メタンの基質になっていきます。この違いの原因については私には整理できません。しかし、牛のルーメン発酵においてVFAのうち酢酸生成割合が多いほどメタン発生によるエネルギーロスが多いことは確かです。
ルーメン発酵という連続発酵では、バイオガスプラントによるメタン発酵の連続発酵に比較して、1日の投入量、排出量に対する発酵槽の容量が大きく違う、あるいは発酵のpHが違うなど種々の点で「発酵システム」が異なります。
調べてみるとメタン発酵では、ルーメン発酵においては菌体生成量等大きく発酵に関与する原虫がほとんど発酵に関与していないようです。
ルーメン発酵以外にも牛や馬等の草食動物は大腸に繊維を分解する菌が多数存在し、VFAを生成します。メタン発酵における繊維分解菌による有機酸生成はどのくらいなのでしょうか?
私が調べた中ではバイオガスプラントに投入した有機物中の繊維をどのくらい分解されたかを示す研究事例を探すことができませんでした。
但し、下記の研究報告等から類推して発酵期間後の最終的な繊維の分解量は繊維分画(易消化性分画(Oa)、難消化性分画(Ob))の割合で異なりますが、ルーメン発酵と大きな違いはないと推測しました。
更にルーメン発酵と同様リグニンなどの難分解性の有機物が多い木質系はメタン発酵のエネルギー源にはなりにくいと言えます。
牛は進化の過程でルーメン発酵というシステムで繊維をエネルギーにすることができました。その結果メタンを発生させ、それを人は少しでも減らす牛の発酵方式を模索し、一方バイオガスプラントによるメタン発酵は、それを自然から学び、人為的に密封した発酵槽を作り発酵をコントロールして、投入した有機物をできるだけメタンというガスエネルギーにして収集する方策を模索しています。
皮肉にも対照的な研究と言えます。この二つの発酵システムを知ることで、新たな発酵方式が生まれてほしいと密かに願っています。
尚、冒頭の電顕写真は下記の研究報告からの転載したものです。
(参考研究報告)
「バイオマス利活用(その3)」(農業土木学会誌:第73巻第8号)