大豆を主原料とする副産物の中に飼料となるものは、豆腐粕、豆乳粕、醤油粕等あります。これらは何れも乾物当たり10%前後の脂質成分を含んでおり、高エネルギー飼料です。
これらの脂質成分の中にレシチン(フォスファスチジルコリン)というリン脂質成分が含まれています。
このレシチンはルーメンの微生物が持つ酵素により加水分解されます。一部は分解されず、腸内で主に膵臓から出る酵素により加水分解され、GPT(glycerophosporyl choline)の形で血液中に移行、さらにコリン等に代謝されます。このコリンは脂肪肝予防に、GPTは成長ホルモンの刺激物質となります。
しかし、気になるのは一般に言われる薬理的量に対して、豆腐粕等の副産物の給与によりどのくらいGPTを摂取できるかです。
牛においては、レシチン摂取量と血中のGPT、コリン含量を調べた研究報告を探すことはできませんでした。
脂質のルーメンにおける加水分解は高いことが知られており、脂質のまま、下部消化管への移行が30%程度とすると、乾物1㎏の豆腐粕の給与によりコリンの血中の移行は、凡そ0.1gにすぎません(200g×0.3×0.035(脂質に占めるレシチンの割合)×0.4(レシチンに占めるGPCの割合)×0.14(GPCにおけるコリンの割合))。
そのため、脂肪肝予防や成長ホルモンの刺激となる薬理的量に比較し、1/10以下と低く、その効果はあまり期待できなくなります。しかし人と同様、豆腐粕乾物1㎏摂取によりその不足を防ぐGPCやコリンの供給にはなっています。
その他、牛の飼料としてコリンの供給源になるのは、玄米等の穀類等の胚芽部分です。胚芽部分にはリン脂質が多くコリン化合物を含有しています。
ここで注目したいのは、牛の育成期の豆腐粕等レシチンが多い副産物の給与です。
哺育期~育成期はルーメンでの脂質の分解が低いことが知られており、成牛よりは給与により血中のGPCやコリンが高くなるかもしれません。また人ではαGPCの給与により成長ホルモンの刺激作用があり、成長期の育成牛では同様な効果が期待され、発育にプラスに働くかもしれません。
育成期に脂質が多い豆腐粕等の副産物を給与することに困惑する方もいると思います。早刈リのチモシーには、乾物中脂質が4%前後はあります。たとえ豆腐粕を給与しても給与飼料全体の脂質含量を4%以内することは容易なことです。
レシチン等のリン脂質は牛の成長や代謝に不可欠な細胞膜の構成要素であり、ここで忘れてならないのは、牛においてこの一番のリン脂質の供給源はルーメン中の菌体です。ルーメン細菌や原虫には牧草等の飼料より多くのリン脂質が含まれているからです。
やはり、牛の飼養においてルーメン菌体量を最大限するする飼料設計、飼料給与が重要であることは言うまでもありません。
(参考記事)
「脂質系栄養素:コリンの普及に際しアメリカの現状から」(総説)(「脂質栄養学」第26巻第1号(2017)