この題目を見て「イノシトール」が当てはまると見立てる方は少ないかもしれません。
これについて、具体的に整理していきたいと思います。
稲における子実中の胚芽を含む米糠にはフィチン酸という植物全般にみられる生体物質が多く含まれています。
このフィチン酸は、フィターゼという酵素によりイノシトールが生成されます。この酵素を持つ乳酸菌や酵母も同様に発酵により生成することが知られています。1)
またイノシトールは医学分野等ではビタミン様の働きをすることが知られ、「抗脂肪肝因子」という名称がつけられています。 さらに、乳牛にイノシトール高含有の発酵飼料を給与して代謝に影響を伺わせる血液成分や乳生産の違いがみられたという事例もありました。2)
しかし、稲WC(ホールクロップ)等の胚芽を含む飼料をサイレージ化(密封貯蔵)して、どのくらいのイノシトールが生成するかの研究報告を探すことはできませんでした。
私が携わった研究の中では、玄米(粉砕)、食品副産物主体の飼料をサイレージ化した事例では、イノシトール自体を分析しませんでしたが、フィチン酸が減少する傾向は確認しました。
この理由を推測するに、サイレージ化中に酵母、乳酸菌等が持つフィターゼによりフィチン酸がイノシトールとリン酸に分解したためと捉えています。
この調査事例では、玄米(粉砕)1㎏の発酵により5g程度のフィチン酸がイノシトール(1g程度)とリン酸に分解したことになります。
このように、稲WC、籾等を乳酸・アルコール発酵(密封貯蔵)すれば、イノシトールが生成させることをぜひこの機会に知ってもらえればと思います。
また、国内において、この分野の研究が少しでも進んでもらえればと密かに望む次第です。
(参考研究データ)
1)研究報告「発酵食品のⅮ-chiro-inositolの測定」(香川県産業技術センター,2008 6月)
2)「イノシトール混合飼料の乾乳期投与による血液変化、産褥期病予防および乳質改善の効果」( Dairy journal 56 (9), 57-59, 2003-09)