牛の下部消化管での澱粉利用は?

これまで本TMRセンターで使用している飼料原料を中心に解説してきました。これからは実際にTMRの設計していく中で見逃されている点を中心に整理していきます。

第1回目は牛の澱粉利用と「腸内発酵」との関係です。

牛は草食動物であり、進化の過程でルーメン発酵により炭水化物である繊維をエネルギー源として利用するようになった家畜です。

牧草には繊維以外の炭水化物として、澱粉、糖が含まれています。一般に澱粉は少なく糖が草種や生育ステージにより変動します。乾物当たり10%程度になる場合もあります。

乳牛のエネルギー源として、穀類を多く給与するようになったのは科学が発達した近代からであり、それ以前の給与はもっぱら牧草等に多く含まれる繊維をルーメン発酵により揮発性脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸等)等の有機酸に分解してエネルギー源の主体にしていました。それに対して乳牛の育種改良が進んだ現在は、大量の乳生産をするため、牧草や飼料作物等の繊維含量が高い飼料だけではエネルギー供給が追い付かず澱粉や油脂が多い穀類や精製された油脂を給与しなければ、ご承知のように受胎や乳生産を維持できない栄養状況になっています。

現在の高泌乳の牛においては、トウモロコシ等に多く含まれる澱粉は、ルーメン発酵では処理できず、小腸以下の下部消化管で消化酵素より血糖として利用されています。さらにその澱粉は大腸にまで達して、「大腸アシドーシス」により牛の健康に悪影響を及ぼす事態までになっています。

私が学生時代の獣医学の教科書には乳牛の糞のpHはアルカリと記述されています。しかし、今の泌乳牛の糞pHは7.0以下が多いでしょう。フィールドでの受胎と糞pHと関係を調査した研究事例でも受胎率が高いのは弱酸性域です。しかし腸での酸生成がさらに多くなると腸粘膜までダーメージを及ぼす「大腸アシドーシス」が引き起こされることになります。

「大腸アシドーシス」を知る方法として、あるセパレーターを使った「糞洗い」が普及しています。腸内の炎症が起こるとその防衛反応としてムチンという粘液物質が多くなります。この状態では腸内の内毒素(エンドトキシン)が多くなり、また免疫機能を有する粘膜周囲の細胞にも障害が起きていると捉えるべきです。

前述したとおり、改良が進んだ現在の牛は澱粉を多量に給与しなければ、エネルギー充足がおぼつかず、期待どおり乳生産や受胎ができない状況です。一方、ルーメンアシドーシスや大腸アシドーシスの危険も抱えており、この両方をクリアする飼料設計がTMRに求められています。

次回はこの両立のむずかしいTMRの設計において重要なポイントとなる「糖新成」について整理していきたいと思います。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。