飼料設計モデルの見逃されていること(8)「牛群の中に飼養標準以上に採食できる牛は何頭?」

一般に飼養標準では体重や乳量等でその泌乳牛の乾物摂取量を推定し、その中で要求量を満たす蛋白やエネルギーの濃度を決めていきます。                                          つまり、泌乳牛が乾物摂取量をその基準より多く摂取できれば、より多くの乳生産が期待でき、またエネルギー濃度を基準より低くすることが可能です。酪農家を悩ますアシドーシスのリスクを低くすることができます。 ただ、フリーストール等であれば反対にエネルギー充足後は太りやすいリスクは出てきます。            

しかし、繫ぎ飼い方式の農家さんでは、そのデメリットは解消できます。それは、給与飼料のエネルギー濃度を下げたり、乾物消化率を下げることで可能だからです。                              逆に遺伝的な泌乳能力が高いのに、分娩後飼養基準より乾物摂取量が低い場合には、濃厚飼料等を増やさない限り、エネルギー不足が解消できにくい状態になります。濃厚飼料を増やせば、アシドーシスのリスクが高くなります。

今回、この対応策としてここで取り上げたいのは、府県の繫ぎ飼い農家さんにおいて、育成費が高くなる中で、メリットを出す育成飼養方式であり、分娩後も初産の胃袋を大きくする給与方式の紹介です。                 この給与方式の狙いは長命連産です。                                      牛の更新産次が3産次であれば4産次にして、初妊牛の減価償却費を低減し、また、泌乳牛においてはアシドーシスにしない、分娩前過肥にしない給与方式です。経産牛の年間の乳生産を高いものにする方式です。                                         これらは、飼養標準より食い込める牛群を作って初めて可能です。この方式を作るのは簡単ではありません。牛の成長や栄養生理を理解し、実践し試行錯誤して始めて可能な方式です。

私が「食い込める牛群」にする育成方式、初産牛の給与方式を今回は簡単に紹介します。

  1. 育成牛は生後6ケ月までに、その体高は成熟時の約75%に達します。育成のポイントはここになります。 この 成長の大きい6ヶ月齢までの骨格を少なくとも標準以上に持っていきます。そのためには、ミルクや蛋白摂取量も最低限標準以上が厳守です。飼料費も一般より高くなります。しかし、これをやることで、私が推奨する「食い込める牛群」に一歩近づくことになります。
  2. それ以降はひたすら粗飼料を飽食させ、「腹作り」に専念します。乾草やサイレージの粗飼料からの乾物摂取量やエネルギー摂取量を高め、標準以上の発育をさせるには、粗飼料を細断する必要が出てきます。また繊維の消化率を高くしないと達成できません。そのポイントは給与飼料の蛋白レベルです。この蛋白レベルを気にせず、育成牛に粗飼料を給与してはいけないのです。
  3. 粗飼料の繊維の消化率を上げる重要な条件は蛋白レベルを12~13%にすることです。府県におけるイネ科の流通乾草や自給飼料の蛋白レベルは多くはこれより低いのではないでしょうか。
  4. そのため最低、蛋白含量が25%以上の濃厚飼料を1㎏程度は給与しなければならないのがほとんどです。
  5. 初産牛の「腹作り」で役に立つのは毎月の乳検成績です。初産牛が分娩後の泌乳前半の乳脂率が3.5%を切る多くの場合、粗飼料不足か、エネルギー不足(この場合は乳蛋白も3.0%以下になる)です。初産牛の乳蛋白を少なくとも3%以上にして。MUN(乳中尿素態窒素)は10㎎/dl以下にしたいところです。これが初産牛の「腹作り」の第一歩となります

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。