酪農家、獣医師にとって、乳牛の「エンドトキシン」と聞いて、急性の大腸菌性乳房炎と結びつける方が多いのではと思います。
抗生物質の投与等により大腸菌が死滅しその結果、細胞の外膜にあるリポ多糖(LPS)、所謂エンドトキシンが排出され、ひどい場合には血中含量が高くなり、サイトカインストームが起こり、死に至る危険性があります。
この厄介な大腸菌等のグラム陰性菌が死滅する際に多量に排出されるLPSによるショックは、ルーメン、大腸のアシドーシス等でも起こり、牛は重篤な症状を呈します。また慢性炎症時に排出される場合も、全身的な影響を受け、子宮、卵巣等の繁殖、あるいは乳中の体細胞数の増加など生体に種々の悪影響を及ぼすことがあるようです。またLPSを不活化させるラクトフェリン等の研究も進んでいます。
しかし、医学分野では、このエンドトキシンつまりリポ多糖(LPS)が少量腸管内での発生、或いは経口投与等で血液中への影響がないような場合は、「免疫賦活物質」になるという報告をしている研究機関もあります1)。
これはいったいどういうことなのでしょうか? 不思議に思い少し調べたところ、腸内においてはある種のグラム陰性菌が出すLPSは腸内の免疫細胞を刺激し免疫力を高めるという報告がありました2)。
牛の腸内には、大腸菌等のグラム陰性菌の他に、乳酸菌等のグラム陽性菌に分類される菌がいます。腸内発酵が良好ということは、これらの菌のバランスがよい場合です。この腸内菌叢の微妙なバランスの中で、グラム陰性菌から排出されるLPSが腸内の免疫に関係する細胞を刺激し、免疫賦活の作用をしている可能性があります。
しかし、この菌叢のバランスが崩れ、例えば大腸菌、ウエルシュ菌等の菌が増殖しその毒素により、牛は下痢やひどい場合は重篤な症状になっていきます。
LPSの種類やどの程度のLPS量が牛の腸内免疫に影響するかは私の中では整理されていません。何れ牛においてもLPSの研究により、有効な腸内免疫、あるいは乳腺、子宮、卵巣等への免疫増強に繋がる可能性があるのではと感じる次第です。
(参考資料)
1) http://shizenmeneki.org/jisseki/index.html
2) 「腸内細菌の代謝物を介した免疫機能制御」(「腸内細菌学雑誌」36:1-11(2022年))