牛の栄養代謝の素朴な疑問(12)「5大栄養素の中で体内に蓄積されるものは?」 

この答えの一般的回答は、脂肪や脂溶性ビタミンであり、ミネラルであれば、骨の主成分であるカルシウムやリン等、炭水化物であれば、主に肝臓中のグリコーゲン、蛋白の蓄積は主に筋肉そのものと答えるのではないでしょうか。                                                                                                                唯、貯蔵期間は栄養素によって、あるいはその栄養素の摂取量、消失量によって大きく変わるでしょう。

この中で飼料高騰が続く今、過不足なく栄養素を効率的に給与するには、この体内の蓄積について、自分なりに整理しておきたいと思った次第です。

一般には、適切な栄養素の給与量は、国内外の乳牛の飼養標準等に基づいて行われます。
これは机上での計算値です。この精度を高めるにはやはり、基礎的な体内における蓄積や代謝と関連付けておく必要があります。

過去のブログでも示したように、過剰のビタミン、ミネラルを給与しても、血中レベルが低く体内の不足を示す場合があります。それは体内に蓄積が続いている場合もです。
ビタミンやミネラルの多くは単独で体内に吸収、利用されるのではなく、例えばその輸送蛋白が低値を示せば、血中レベルは低くなります。一方、ビタミン、ミネラルの吸収が少ない場合にもその輸送蛋白値は低くなるでしょう。                                                     そのため、MPT(代謝プロファイルテスト)を実施し、ビタミン、ミネラルの低値を示す牛がいても、エネルギーや蛋白充足を確認してその過不足を見る必要があります。
さらに脂溶性ビタミン、特にこれまでビタミンAが過剰に給与されていれば、採血時点で不足する給与量でも血中では肝臓から供給されるため、低値を示さないことが多くあります。

一般に水溶性ビタミンは、脂溶性ビタミンと比較し、蓄積はわずかであり、一般には人などの単胃動物は絶えず供給されない限り、不足が起こるリスクはあります。
しかし、乳牛においては、高泌乳牛においても、水溶性ビタミンの欠乏症例の報告を探すのはむずかしいでしょう。
その理由の一つは、誤解を恐れずに言えば、給与された飼料をルーメン微生物が牛への「発酵飼料」とし、さらにその「発酵飼料」中には細菌や原虫等が生成したビタミンB群等の水溶性のビタミンが新たに生成され、また菌体蛋白となっているためです。
しかし、ルーメン微生物によりどれだけの量の水溶性ビタミンが新たに生成しているかは、私の中では整理できていません。

5大栄養素のうち、3大栄養素の炭水化物、蛋白質、脂肪の過不足は飼料計算や飼料分析等から凡そ判断できます。しかし、ミネラルやビタミンについては、その過不足の診断は3大栄養素より難しいと思っています。実際、NRC標準等でも脂溶性ビタミンの必要量については、飼料中の含量を含めず別途添加量で示しています。
体内の過不足の診断が簡単ではないミネラル、ビタミンの場合は、「保険」的な給与にどうしてもなってしまいます。

ビタミン、ミネラルが不足すると免疫、受胎等に影響することは広く知られていることです。
一方、不足していなければ多くの場合は、過剰に給与して「安心」はできますが、飼料費をアップする原因になります。
乾乳期に飼料中のビタミン量で不足することは少ないと捉えている農家さんでは、ビタミン剤を添加していないのも見かけます。
飼料計算上、ビタミン・ミネラルについても充足率が100%程でいいとするか、あるいは机上の計算では安心できず、もっと量を多くするかは、私の中では農家さんがそのメリット、負担額等の総合的な経営的判断でされているとみてしまいます。                                                                                              飼料費を抑えていく中でビタミン剤等の添加剤にどれだけ費用をかけるかは、農家さんの経験的な主観的判断が強いようです。

冒頭の写真には、人の肝臓中の「ビタミンA貯蔵細胞」(伊東細胞)中にビタミンAを多量に含んでいる脂肪滴が中央に映し出されています。                                             ビタミンAは細菌や原虫が作ることができないビタミンであり、さらにビタミンDやEのように飼料からも直接摂取できないビタミンです。そのため、哺乳動物は進化の過程で他ビタミンとは異なり、長期間蓄積できる細胞を分化させたのかもしれません。

この記事を書いた人

Ishida

いろんなことに「なぜ」、「なぜ」と問いかける性分が子供の頃からあり、今も続いています。牛は私に「正直」に接してきますが、人は必ずしもそうではないため苦手です。このブログを通して、牛が農家さんに貢献してくれるとともに、牛が健康に長く生きられる術を皆さんといっしょに考えていきたいと思います。