私は学生時代、乳牛における繁殖へのβカロテンの影響を若干研究したことがあり、同じ草食動物(偶蹄類)の羊ではβカロテンを含むカロチノイドはほとんど移行しないことを知っていましたが、最近、水牛も同様に血中にはβカロテンはほとんど移行しないことを知りました。
水牛とホルスタイン等の所謂牛とは種は違いますが、同じ牛科です。
私がβカロテンを研究した時には、なぜβカロテンが牛の繁殖に影響するかは、栄養生理的にははっきりしていませんでした。その後の研究により、βカロテンの抗酸化作用が影響していることを知らされることになります。
同じ繁殖に影響する微量要素として、一般に抗不妊因子として明らかにされているビタミンEがあります。このビタミンEも生体内における抗酸化作用が強い物質です。
βカロテンゼロの飼料を乳牛に給与した場合はどうでしょう。ビタミンAも添加しなければ、その欠乏症が起こります。しかし、ビタミンAを十分与えた場合はβカロテンを給与しなくても、受胎への影響以外の欠乏に起因する疾病の研究報告は見当たりません。
前述の水牛のように血中にほとんど移行しない動物にとっては、一般には受胎にも影響少ないと推定しまいます。
栄養生理学的に抗酸化物質が牛の免疫、受胎に大きな影響を与えるということが私の中で意識されるようになったのは、2000年以降です。その後、ステビア、お茶など、植物から抽出される抗酸化物質が次々に紹介され、牛へ給与試験が実施されました。私も牛の酸化ストレスに対する抗酸化物質の効果に的を絞り、低価な効果の高い抗酸化物質の探求に力を入れました。
私の中では、ビタミンAの前駆物質(プロビタミンA)であるβカロテンも抗酸化物質としてみた場合は数あるその一つであり、ビタミンEのように血中レベルが長期間低値を示せば、欠乏症状を示す必須な微量要素とは考えにくいと判断しています。
脂溶性ビタミンは、同じ脂溶性であるコレステロールとは牛の泌乳ステージにおける血中の推移では同じ傾向を示し、分娩前後は低値を示します。βカロテンも同様です。
血中コレステロールは低値を示し欠乏すれば、確実に細胞内代謝に影響し、免疫や受胎に影響します。しかし、βカロテンの場合、牛の血中レベルがゼロになれば、確実に不受胎になるという研究報告は見当たりません。
やはり、分子生物学的な細胞レベルにおいて、βカロテンの特異的な作用を解明されない限り、数ある繁殖に影響すると知られている抗酸化物質の一つにすぎないと捉えた方がいいのではと今のところ判断しています。