私は飼料関連のメーカーに就職し、これまでサイレージ関連の研究開発にも携わり、酪農家さんのサイレージ調製を見させてもらい、技術的なフォローをし、国内外のサイレージ関連の研究知見も周知してきました。その中で幾つか一般には見逃されていることがあると思っています。
今後のブログではそれらを紹介していきたいと思います。
第1回目はサイレージ中の「酪酸」を取り上げます。
一般に原料草の水分が高く、糖含量が低い、蛋白・ミネラルが高く緩衝能が高い等により酪酸菌の増殖が高まり、アンモニアの含量が高まるとともに乳酸含量が低く、酪酸含量が高いサイレージができる場合があります。
この不良発酵したサイレージの発酵品質において酪酸含量に注目し、酪酸自体に毒性がある捉えをする方が多くいます。
アンモニアも酪酸もルーメン内の微生物により生成させる代謝物であり、ルーメン内にある限り牛への毒性はないとみていいでしょう。しかし、血中に出た場合の影響はアンモニアは酪酸由来のケトン体(BHBA)の100分の1以下で受胎等の悪影響を示します。さらに酪酸発酵したサイレージには毒性の強いアミン類も生成される場合もあります。
血中に出たアンモニアは生体内ではその毒性を無くすため直ちに尿素に無毒化されるのに対して酪酸はケトン体等に変化され、乳酸、酢酸と同様生体のエネルギー源に使われていきます。
すでにケトン体は医学分野では生体内の効率的なエネルギー源と見なし、その酸性により代謝性アシドーシスにならない限り問題は出ないという見解を示す医学者も出てきています。
過去、山羊や牛を使い酪酸のルーメン内投与が試みられています。成牛換算400ml程度の酪酸を与えて臨床的に障害がみられる等の報告は見当たりません。
さらに、牛ではないが羊における飼料への酪酸添加試験(山形大学、1997年)において、添加により飼料の嗜好性は落ちていません。飼料への10%以上の添加においてはむしろ高い嗜好性を示したことは興味あるところです。
酪酸菌が優勢のサイレージには糖は残っておらず、牛の炭水化物源は主に繊維の他、酪酸や酢酸であり、しかもアンモニアは通常の乳酸発酵サイレージより高く、当然糖やでんぷんをルーメン微生物に補給してやらなければ、また血糖値を高める飼料給与をしなければ、アンモニアの悪影響が牛に出てきます。また分娩初期の牛に至っては体脂肪の動員が大きく、肝機能が低下しており、アンモニア等の解毒作用も弱っています。
確かに酪酸含量の高いサイレージを給与し、食餌性ケトーシスと診断され、治療を受ける症例の報告はあります。しかし上記の点から酪酸をあたかも毒性物質のような捉えをし、アンモニア等の他の要因を軽視することは、その対処法を見誤ることになるのではないでしょうか。
ちなみに「ぬか漬け」の中にもあの独特の匂いのもとである酪酸が含まれています。酪酸の腸内免疫への影響やがん細胞への影響などつぎつぎに新たな研究報告が出てきており、何れ牛への酪酸の効果が見直される時が来ると見超しています。