前回のブログではモネンシンやそれに類似する商材のルーメンプロトゾアへの影響を整理しました。今回はモネンシンを出荷まで投与すると枝肉の脂肪が硬くなる(飽和脂肪酸割合が多くなる)という指摘がネット等で散見するため、自分なりの整理をした次第です。
この回答に対する明快な学術的な研究報告は私が調べる限り国内の報告では見当たりませんでした。
逆に海外等の研究報告ではモネンシン投与により枝肉の不飽和脂肪酸の割合が高めるという報告はあります1)2)。
そのため、モネンシンのルーメン微生物への影響の学術的知見をもとに、自分なりの推測内容を紹介します。
牧草主体で肥育した牛の枝肉を「グラスファット」と言うように、ルーメン発酵においては粗飼料の多い肥育ではルーメン内で水素発生が多く、不飽和脂肪酸の水素添加が多くなれば、飽和化が進むでしょうし、モネンシン等の投与により水素利用を促すルーメンプロトゾアやメタン生成菌の増殖が抑えられれば、飽和化は進まないことになります。しかし、水素を生成する菌は繊維分解菌等もおり、モネンシンよるこれらの菌への抑制は低いので、水素が多くなる場合も有りうるでしょう。さらに繊維分解菌の増殖はルーメンpHや飼料中の繊維含量や物理性等、他の要因にも影響されます。
このような事実から、肉牛肥育において出荷までモネンシンやそれに類似する商材を投与した場合、ルーメン内の他の要因により、無添加より脂肪酸の飽和化が進む場合とそうでない場合があるのではと、どうしても捉えてしまいます。
肉牛においては、モネンシン等の投与の試験研究はこれまで国内外の研究機関で数多く実施されています。その中で確実に言えることは、本品を基準量投与した場合、ルーメンでのメタン生成量が減少する発酵パターンになることです。
肉牛肥育において、種々の飼料メニュー、給与方法よるルーメン微生物叢の違い、その中でモネンシンやそれに類似する商材の投与による、この確実な発酵パターンの影響が、ルーメン内の高級脂肪酸の動態の変化を通じて、枝肉の脂肪の質へどのように関与するかがポイントになるではと捉えています。
やはり、このような視点に立った給与試験を含めた詳細な試験研究が実施されて、初めて冒頭の回答が得られると判断します。
冒頭の図は、肉牛ではなく、乳牛においてのものですが、下記の3)に示した研究報告における、泌乳牛のTMRへのモネンシン投与の有無による乳生産、乳成分の結果です。これはモネンシンのルーメン微生物への影響が理論どおりなった事例とみています。つまりモネンシン投与により、乾物摂取量が減り、有意にメタン生成量は減少、その結果乳生産に違いはないものの乳成分に有意な差がみられています。
(参考研究報告)
1)Effects of Dietary Monensin on Bovine Fatty Acid Profiles:J. Agric. Food Chem., Voi. 33, No. 1, 1985
2)Long-Term Effects of Feeding Monensin on Milk Fatty Acid Composition in Lactating Dairy Cows (December 2007 Journal of Dairy Science 90(11):5126-33)
3)Long-Term Effects of Feeding Monensin on Methane Production in Lactating Dairy Cows
(J. Dairy Sci. 90:1781–1788 doi:10.3168/jds.2006-708)