なぜ、このような冒頭のタイトルを付けたかというと牧草や飼料作物のサイレージにおいては、乳酸菌、酪酸菌等による発酵の良否は乳酸発酵、酪酸発酵という呼称のとおり、有機酸生成に焦点が当てられています。しかし、私が乳酸発酵で生成される物質の中で重要と捉えているのは、エネルギー源としての乳酸などの有機酸ではなく、ルーメン発酵や受胎を左右するアミノ態窒素化合物(遊離アミノ酸、ペプチド)、アンモニア、アミン類です。
その理由は、乳酸、酢酸、酪酸等の有機酸はエネルギー物質の一つですが、これらの窒素化合物はそれらより少量で食欲、ルーメン発酵、代謝等に影響する物質だからです。
特にアンモニアやアミン類は少量でも血中に入れば、毒性やエネルギーロスに繋がってきます。
牧草等で多くなる硝酸態窒素もサイレージ化により大きく減少します。しかし、それは主にアンモニアになるだけで、牛の栄養素としては適していません。
牧草等のサイレージの発酵品質を調べる分析項目として、VBN(揮発性塩基窒素)値があります。これは、前述のアンモニア、アミン類等を合算した窒素を表していることになります。
サイレージ発酵の良否をスコア化(100点は満点)する指標として「Vスコア」があります。
牧草サイレージのVスコアが100点でも、多くはアンモニア等(VBN/総窒素)が1%以上になります。
乳酸菌は一般には、蛋白等をアンモニアにする代謝はないため、乳酸菌以外の菌によるものでしょう。
私の中では、良質の牧草サイレージとは、栄養価は元より、硝酸態窒素が低く、しかもアンモニア等の有害物質が少なく、そして牛のルーメン発酵や食欲をよくするアミノ態窒素リッチ、糖含量リッチと判断しています。
一般に乳酸菌製剤は国内外で数多く製造・販売されています。その添加によりアンモニア等のVBN値は示されていますが、牧草・飼料作物のサイレージ化により蛋白質がどれだけ遊離アミノ酸(ペプチドを含め)になるかを示しているデータは余りありません。
乳酸発酵の強い粗飼料サイレージは新たに遊離アミノ酸等が生成されるため、アンモニア態窒素が少なければ、生草や乾草等の未発酵よりその含量は高いでしょう。
但し、牧草等をサイレージ化しても酪酸発酵が強ければ、可溶性の蛋白は増加しますが、それはアンモニア等の有害な非蛋白態窒素です。
次回のブログではこの遊離アミノ態窒素化合物(アミノ酸、ペプチド)が牛の代謝にどのような好影響を与えているか、整理したいと思います。
冒頭の研究データ1)は、チモシー、アルファルファ―をサイレージ化した際に、乳酸菌製剤等の添加剤(LC:乳酸菌、AO:酵素)の添加により可溶性蛋白(SIP:主に遊離アミノ態窒素、アンモニア、低級アミン類など)中におけるアンモニア態窒素(NH3-N)が少ないことを示しています。つまり、乳酸菌等の添加により遊離アミノ酸等のアミノ態窒素が無添加より多い傾向にあります。この添加処理のフリーク評点(乳酸生成割合が高いほど点が高い)とアンモニア態窒素割合/SIP割合は、調べてみると高い負の相関がありました。
以上から牧草・飼料作物サイレージの乳酸発酵が高い場合、アミノ態窒素含量が高くなることが理解されたと思います。
(参考文献)
1)「サイレージの発酵品質と蛋白質のルーメン内分解性に及ぼす牧草の刈取時期と添加物の影響」(北畜会報:38:23- 27,1996年)